上司からの理不尽な要求や罵声、同僚からのいじめ――。そうした職場での「パワーハラスメント」(パワハラ)に悩まされる方々は多いのではないだろうか。

 しかし、「パワハラ」はその性質上、なかなか認定されにくく、訴訟にも発展しづらい。なぜなら、上司と部下のコミュニケーション不足や言葉の認識の違いとして受け取られてしまうからだ。また、パワハラは密室や仲間内での「言葉の暴力」によることが多いため、証拠が残りにくく、表面化しにくいといった問題点がある。

 そんなパワハラも、最近では認定されるケースや訴訟にまで発展する事例が出てきている。07年には「給料泥棒」などの上司の暴言を苦に自殺した男性に対して、東京地裁がパワハラを労災と初めて認定した。さらに、9月6日の毎日新聞の報道によると、他の5人を含めた6人の元女性外交員が、近々、明治安田生命と所長を相手取り慰謝料など計3850万円の損害賠償を求める集団訴訟を起こす、ということだ。

 これらの事例は、潜在的に存在するパワハラ解決への糸口になると考えられる。今回は、実例を交えながらパワハラ認識への問題点と企業に求められるパワハラ対応の問題点について言及していきたい。

「セクハラ」と「パワハラ」は
似て非なるもの

 パワハラの議論になる際、よく比較されるのがセクハラだ。しかし、両者は似ているようで、認定の面では同様に解することができない。セクハラは、被害者保護の観点から、多くの事例で被害者側がセクハラと感じるか否かが判断基準になっているため、被害の申告がされると「セクハラ」と認定されることがほとんどで、被害者に落ち度があるといった言い方をされることはない。ところが、一方のパワハラは、必ずしもそういう訳ではない。

 パワハラとは、職務上の優越的権力を利用して自分より下位の人物に対して、人権侵害ともいえる言動により、不法に精神的肉体的に損害を与える、またはそれによって就業環境の悪化や雇用に対する不安を発生させることを指すとされている。しかし、言動が人権侵害になるのかどうかというのは、受け取る側と指導する側の感覚によって若干ずれる場合が多い。上司は熱心な指導をしたつもりだったが、受け取る部下にとっては、上司から言葉による攻撃をされたとの被害妄想になっているという場合も考えられる。

 つまり、両者のコミュニケーション不足や言葉の認識の違いと受け取られてしまうことがほとんどで、何でも「パワハラ」と即断してしまうことはできないのだ。