本誌を書店で読者が手にしている頃には、黒田東彦総裁率いる日銀は国債買い入れ拡大を中心とする「量的・質的に大胆な緩和策」を開始しているだろう。合議制ゆえに4月4日の金融政策決定会合で合意に至らない政策があったとしても、今月26日の会合では導入が決定されるだろう。

 これまでの日銀もかなりの額の長期国債を購入してきた。年間購入額は、政府の新規国債発行額に匹敵する規模だった。日銀がさらに大規模に長期国債を購入すると、市場で国債が不足して、長期金利が一段と低下する可能性がある。そうなると、預金の多くを国債投資に振り向けていた日本の銀行は、深刻な利鞘縮小に直面する。

 追い詰められた銀行は、期間収益を確保するために、これまでよりも長い期間の国債を購入するか、あるいは外債など他の資産へと運用をシフトさせる必要が生じる。つまり、日銀による国債購入策は、金融機関をムチで叩いて、より大きなリスクを取るように促す政策だといえる。FRBなど他の先進国の中央銀行も同じようなことを行っているが、これは妙な話だ。

 金融危機以降、米ドット・フランク法を代表とするように、世界中の金融規制当局は金融機関にリスクを取らせない規制を新たに生み出してきた。それなのに、中央銀行は超緩和策によって「資産をリバランスさせてリスクを取れ」とムチを振り回している。方向性がちぐはぐなのだ。

 かつてポール・ボルカー元FRB議長は「これまでの金融イノベーションは、金融機関が規制や税金を逃れるためのものであり、消費者や経済に恩恵をほとんどもたらしていない」と述べた。規制でがんじがらめになっている今の金融機関が中央銀行に「もっとリスクを取れ」と事実上圧力をかけられたら、規制の網をかいくぐる“イノベーション”を開発するところが自然と出てくるだろう。当局が捕捉できない新たな金融リスクが世界中で生まれる恐れがある。