麹町経済研究所のちょっと気の弱いヒラ研究員「末席(ませき)」が、上司や所長に叱咤激励されながらも、経済の現状や経済学について解き明かしていく連載小説。前回から3回にわたり、特別編として、“いまさら聞けない”アベノミクスについて、末席が精魂こめて解説します。今回は、アベノミクス3本の矢の2本目、財政政策について。(佐々木一寿)

「日本では新奇的に扱われる『アベノミクス』は、じつは『世界標準ノミクス』だった!?(1)金融緩和編」を読む。

 末席研究員は、「アベノミクス」に関して、週刊ヨミヨミこども新聞の記者の取材を受けている。読者であるこどもたちにもわかりやすい政治と経済の解説を求められるというムチャぶりに、必死に対応中だ。例のごとく末席は、あらゆる「需要」に応えなければならない。それが麹町経済研究所の基本方針だからだ。

 記者は、はやく(2)財政政策の話を聞こうと、(1)金融政策についての最後の質問をした。

「あのー、素朴な質問なんですが、なぜ金融緩和政策で、株の値が上がって、円が安くなるんでしょうか」

 記者の素朴な質問は思いのほか堪えるな…、こどもに株高と円安のメカニズムを理解してもらうなんて、どうすればいいのだろう。末席は途方に暮れながら口を開く。

「みかん箱にみかんが入っているとして、みかんのかず(数量)が増えると、箱は重くなってハカリの目方は上がりますよね。みかんはおカネで、株価は目方だと思ってください」

 そんなに単純なことなのか、と記者はびっくりしている。末席はそれを気にする余裕もなく続ける。

「で、みかんが多くなると、みかん1個あたりの『ありがたみ』が薄れますよね。みかんのありがたみが、おカネ(通貨)の価値だと思ってください。少なければ高くなるし、多ければ低く(安く)なります」

 まあ、たしかにそうだけど、経済は難解で知られる現象だし、話はそんなに単純でもないだろう、きっと追加の但し書きがあるはずだ。記者はいぶかしがって、追加の説明を待っている。

「説明は、以上です!」

 えっ…! しばらくの沈黙ののちに記者は確認のために聞いてみる。

「それで本当に終わりなんですか…」

「はい。意外に思われるかもしれませんが、貨幣数量理論的にいえば、ざっくりそういうことなんです」*1

*1 貨幣数量理論(quantity theory of money)におけるMとPの関係より。貨幣数量理論は、流通している貨幣の総量とその流通速度が物価の水準を決めるという、新古典派経済学の主要をなす理論で、貨幣ストックをM、流通速度をV、価格をP、生産量をYとすると、MV=PYというモデルが成り立つとする仮説。詳しくは、第5回「じつは、一粒で日本経済の三大症状に効く妙薬がある!?」を参照