2013年1月に明らかにされた厚生労働省の生活保護費引き下げ方針は、2013年8月、いよいよ実施されようとしている。前回紹介した厚生労働省・課長会議でも、引き下げは既に決定された方針として、全国の自治体担当課長に伝えられた。

生活保護費引き下げの根拠とされているものの1つは、デフレの影響による物価下落である。予定されている生活保護費引き下げ幅は、物価下落幅に対して妥当だろうか? 一見、自然に見える「物価スライド」という考え方の導入に、問題はないだろうか?

「電気製品なんか買えない」
生活保護当事者の生活実態

 近年の電気製品の価格下落は著しい。特に情報機器では、性能向上やイノベーションと価格下落が同時に起こりつづけているため、「安くなった」という実感が大きい。性能の高い機器を安価に入手できるようになる反面、世の中に求められる最低限のレベルも上昇しつづけるため、買い替えを迫るプレッシャーは強くなる。物欲がそれほど強くない筆者ではあるが、ノートパソコンは概ね2年ごとに買い換えている。

 家電製品の買い替え頻度は、ずっと少ない。この10年間に購入したものは、指を折って数えることができる。洗濯機1台(中古)、冷蔵庫1台(中古)。それから、電子レンジ1台を中古で購入した。電子レンジが故障した後、オーブンレンジ1台をやはり中古で購入したが、すぐに故障した。その次のオーブンレンジは、新品を購入することにした。合計で4品目、購入回数は5回だ。中古品を購入する場合は、新品より寿命が短いこと、トラブル時に誰が補償するわけでもないことが悩みのタネだ。いつも「新品とどちらがトクだろう?」と考えこんでしまう。

 暖房には、主に石油ファンヒーターを利用している。療養のため実家に戻ることにした生活保護当事者が譲ってくれたものだ。冷房には2台のエアコンを利用している。夏場、ノートパソコンのキーボードに汗が落ちるようでは仕事にならない。エアコンはそれぞれ、購入から15年目と11年目になる。収入が不安定な単身フリーランサーの中でも、電気製品を多く購入している方には入らないだろう。

 では、生活保護当事者はどうだろうか? Aさん(東京都・40代男性・単身・傷病者)は次のように語る。

「電気製品? 買えませんよ。不燃ゴミの日に、自分が持ってなくて不便している電気製品がたまたま捨ててあるのを見つけたら、拾ってきたりしてます。本当はいけないんですけど。電源つないだとたんに爆発したりしたらイヤだから、無事に動くかどうか慎重に確認して、使ってます。冷蔵庫と電子レンジは、拾ってきたものです。洗濯機、欲しいんですけど、買えないままなんです。しかたなく、洗濯はコインランドリーでやっています」

 1年ほど洗濯をせず、コインランドリーでの出費を抑えれば、中古の洗濯機なら購入できる。でも、それは不可能であろう。そして、冬場のAさんの悩みの種は、暖房だ。