戦略ストーリーの書き換えが難しい理由を一言でいえば、それが「創造的破壊」を必要とするからだ。「創造的破壊」は企業変革との関連でよく出てくる言葉である。しかし、これほど「言うは易く、行うは難し」の仕事はない。「創造的破壊」といった瞬間に、破壊と創造という真逆の向きにあるベクトルを同時に扱わなければならなくなる。あっさりいえば、矛盾である。

 戦略転換をとくに難しくしているのは、創造よりも破壊の方にある。現状に深刻な問題がある。戦略を変えなければならない。こうした状況にあったとしても、新たにどちらの方向を向けばよいのか、何をしたらいいのか、あるべき「創造」についてはだいたい見当がついているものだ。

 ところが「破壊」が難しい。とりわけ過去において成果をもたらした「優れた戦略ストーリー」を有している(有していた)企業にとって、破壊は創造の何倍もエネルギーのいる仕事となる。だから、多くの企業は破壊に手をつけず、既存の戦略を所与としてその上に「創造」を重ねようとする。これでは変革はおぼつかない。家の土台が傷んでいるにもかかわらず、土台をそのままに増改築を繰り返すようなものだ。問題の根本に手をつけることができない。ようするに、問題の先送りである。増改築は土台にさらに負担をかけることになるので、いずれ行き詰ることになる。

前回まで話してきたように、企業変革が相対的にやりやすい状況は、(1)いまだに確固たる戦略ストーリーを持ち合わせていない、もしくは(2)すでに長期にわたって業績が低迷して、にっちもさっちもいかなくなるところまで行き詰っている、のどちらかである。

 こうした状況が変革を容易にする理由も、創造的破壊という視点から考えるとわかりやすい。(1)の場合は、改めて破壊しなければならないような対象がそもそも存在しない。だから、相対的に容易な「創造」に集中することができる。

(2)の場合は、既存の戦略ストーリーが、顧客の離反や競争といった外的な圧力によって相当程度にまで破壊されている。だから経営が自ら破壊に乗り出さなくても、半ば破壊が済んでいるわけだ。いずれにせよ、この2つの状況では、あらかじめ破壊という仕事の負荷が軽減されているので、創造的破壊としての企業変革が相対的にやりやすくなる。この意味で、5年前と比べれば、今のソニーには戦略転換がより期待できるといえる。外的な圧力による破壊が一層進行しているからだ。