渋幕・渋渋の
何がすごいのか

 実は、渋幕・渋渋に特段、革新的な学習カリキュラムがあるわけではありません。ただ、「出口戦略」が多様であることは大きな特長です。

 渋幕・渋渋は、これまでの進学校とは違い、東大や医学部一辺倒ではなく、理系、文系、海外進学など、様々な進路に対応しており、多方面から優秀な子が集まっています。

 いろいろな人生の選択肢があり、幸せになる方法もお金を稼ぐ方法もいろいろある。多様な価値観の子どもたち全員に居場所があり、そういう学校にいることで、子ども自身が多方面から刺激を受けやすい。そうした教育環境が親に好まれているのです。

 渋幕・渋渋は海外大学への進学にも対応していますが、「米・ハーバード大学に何人受かりました」などと喧伝することはなく、特別グローバル志向が強いわけでもない。まず生徒の意志があり、生徒たちの意見をすくい上げて、それぞれの望む進路をサポートすることを身上としています。

 私は両校の先進性を象徴するものとして、「模擬国連」が挙げられると思います。模擬国連は、部員が各国の大使になりきり、国連の会議を模して、ディスカッションをする部活動です。

 ここ20年ほど、日本の教育はアウトプットが弱い、ディベートの訓練が必要だと言われ続けてきました。しかし、どれだけの学校がそれに応えてきたでしょうか。模擬国連は、従来の部活の花形である、野球部やテニス部、ダンス部や吹奏楽部といった部活に比べると地味ですが、こうした部活に焦点を当てることで、新しいカルチャーを生み出したのです。

 出口戦略の多様性や先進的な部活を支えるのは、教師や学校の価値観、マインドです。それがこの学校を特別なものにしています。これは創立当初からの積み重ねで、一朝一夕には構築できないものです。同時に、学校のカルチャーに相応する、子を通わせる親たちの教育に対するリテラシーの向上、リベラルな志向も学校の環境に大きく影響しています。

 もう一点、立地の利便性も渋渋では大きな特長です。創立当初は、グラウンドがなく、施設が広いわけでもなく、渋谷の繁華街から徒歩7分という場所が教育環境としても、利便性としても、必ずしもよいとは思われていませんでした。

 ところがここ十数年で、交通網が広がったこともあり、東京メトロ半蔵門線、東横線、山手線、京王井の頭線、副都心線などが渋谷に通じ、多方面から通えるアクセスのよさが間違いなく利点とみなされるように変化しました。

 さらに、渋谷はグーグルやITベンチャーなど、最先端のビジネスの拠点があります。早い段階で実社会の動向を感じ取れる環境にあることは、急速に変化する社会に適応できる人材を育成するうえでも重要です。学校の立地という点で、渋渋は新たな価値観を開拓したと言えるでしょう。

 なお、渋幕は千葉県の幕張にあり、広大な敷地を活かした教育環境という点で、姉妹校でありながら異なる特長を持っているのも興味深いところです。