なぜ成長戦略が重要か

 黒田日銀総裁の放った1本目の矢、「大胆な金融政策」は上々の評判を得てスタートし、今年度は2本目の矢、「機動的な財政政策」の効果も出てくるだろう。

 しかし、既に多くの識者が指摘している通り、日銀だけで「良い物価上昇」を実現することは難しく、一過性の効果しかない財政政策だけで、毎年の巨大な需給ギャップを埋め合わせることは不可能である。前回指摘したように、単なる輸入インフレや資産バブルではなく、良い物価上昇を実現するためには、供給サイドの調整を含めた民間企業の活性化が不可欠であり、遠からず発表される安倍政権の3本目の矢である成長戦略が注目されるところだ。

 ところで、成長戦略というと、どうも各論に走りがちである。たとえば、医薬品のネット販売解禁、発送電分離、iPS細胞実用化の支援、インフラ輸出の促進などは、どれを取っても重要なものばかりだが、こうした各論をバラバラと論ずる前に、民間企業主導の成長戦略の大きな柱は何なのかをしっかり考えておく必要がある。

「成長戦略の5本の矢」

 成長戦略の柱として、誰もが認めるのは、規制緩和であろう。事業への参入を容易にし、競争を促進する中で民間企業が活性化するためには、規制緩和は不可欠な要素である。しかし、筆者は、さらに4本の柱をこれに加えていくべきだと考えている。安倍政権の「3本の矢」に倣って、ここでは「成長戦略の5本の矢」と呼ぶことにしよう。

 筆者は常に企業金融の観点から、成長戦略を考えている立場であるから、前提になるのは、「日本の企業が世界の投資家から信認されることによってこそ、日本企業に成長資金と成長機会が与えられる」という考え方であり、その観点から5本の矢を図示したのが図1である。