五輪は勝負の場だが、それだけじゃないはず

 今回は特に、「競技の外」に注目が集まった。

 例えば、中国の国技と言われる卓球。女子シングルス2回戦で中国のエース、孫穎莎選手と対戦した、ルクセンブルク代表の倪夏蓮選手である。

 倪選手は1963年、上海生まれ。10代から20代にかけて中国のナショナルチームで活躍したものの、「勝つため」の卓球に嫌気がさして引退。英語を学んでからルクセンブルクに移住した。そこの卓球クラブで夫となるコーチと出会い、「楽しむ卓球」を覚えたという。

 今回、倪選手は2000年生まれの孫選手に負けたが、その試合が終わると夫であるコーチが歩み寄り、彼女を抱きとめてキスをした。健闘を称えられて幸せそうに微笑む「61歳のおばあちゃん選手」の姿に、中国人観客の間では「勝ち負けだけが人生じゃないよね」というメッセージも流れた。かつて、日本チームの一員として中国選手と戦った小山ちれ(何智麗)選手に向けられた罵声を思い起こすと、隔世の感がある。

 今回の五輪では「五輪は勝負の場だが、それだけじゃないはず」という声があちこちで上がっていた。銀メダルを獲得した女子バドミントンの何冰嬌選手が、自分との対戦中にケガで棄権した、リオ大会金メダリストのスペイン選手に敬意を表し、スペイン五輪チームのバッジを手にして表彰台に立った姿は、中国でも高い称賛を受けた。

 体操男子団体戦では、蘇イ徳選手(「イ」は火へんに「韋」)が鉄棒で2回も落下した。同選手はもともと「控え」で、選手村に入ってからも練習のチャンスを本メンバーに譲っていたという。だが、突然の出場命令に従ったものの落下、その結果日本の後塵(こうじん)を拝して銀に終わったことで、「金メダル至上」の観客から激しい叱責や罵声が飛んだ。中国メディアの映像では同選手がチームメイトから離れて1人ぽつんと座っている姿ばかりが流れていたが、実は香港メディアによると、チームメイトたちは現場でそんな彼の肩を抱くようにして囲み、一緒に結果待ちをしていたという。

 やはり、かつて倪選手が嫌った「勝つだけ」のムードは、時代とともに変化しているようだった。