一部の選手に牙を剥く飯圏(ファンダム)

 中国メディアはすぐにそれを「『飯圏』のなせるわざ」だと論じた。飯圏とは「ファンダム」、日本的には芸能人などの「推し」文化の延長にあり、一般的にいわれるファンたちの中でも熱狂的な行動を起こす人たちが形成したグループや団体が「ファンダム」と呼ばれる。

 しかし、なぜ五輪という「栄えある場」で孫選手のファンたちが自国選手の陳選手に「牙を剥いた」のか?

 ネットでは、ベテランの陳選手に対し、「孫選手は3種目に出場している。その疲れにつけ込むとは」「全国民が損選手の優勝を期待していたのに、お前がそれを潰した」「先輩のくせして、私欲で利益を奪うのか」「4年前(注:東京五輪)に監督はお前に金メダルを送ったのに、今回その恩返しをしなかった」「孫選手への愛惜があってもいいはず」などという“公開質問状”も流れた。

 どの意見もあまり筋が通っておらず、つまり、「陳選手はベテランなんだから孫選手に金メダルを譲るべき」と言っているのだろうか? だとしたら、それ自体がスポーツマンシップに反する要求であり、それで推しの孫選手が勝ったとしても決して喜ばしいことではないはずだ。一体どうしたら推しのために、そんな要求まで出てくるのか?

 飯圏と呼ばれる活動はそれだけではなかった。前述したように体操で失敗した蘇選手には、ネット上で激しい罵倒が続いたという。その罵りは選手だけではなく、彼の家族や友人、所属クラブのアカウントにまで及ぶほどの激しさだった。

 あまりの過熱ぶりに、中国当局は飯圏規制を呼びかけ始め、国内の主要SNSサービスはそれに応える形で、過熱した「ファン行為」を強制的に排除すると発表。また詳細は明らかにされていないものの、当局は「過剰なファン活動を行った」として29歳の女性を逮捕したことを発表。それに続いて、水泳男子混合金メダルの立役者である潘展楽選手がSNS上の自身のファングループ解散を宣言、その決断の素早さは周囲を驚かせた。