テニスやバスケットでは、飯圏は暴走しない?

 ところが、である。

 女子卓球の優勝戦で陳夢選手が激しく罵倒されたものの、女子テニスの金メダルを獲得した鄭欽文選手の対戦相手には、観客の怒号が向けられることはなかった。銀に終わった男子体操選手に嫌がらせが殺到したが、準決勝にも進めなかったバスケットチームがバッシングを受けることはなかった。

 これはなぜなのか?

 そこには明らかに商業利益が絡んでいるとメディアは論じている。

 テニスやバスケットは、もとより商業性の高いスポーツである。それぞれの種目協会が主催する大会やイベントはチケット収入が得られ、グッズなどの関連商品は大事な業界収入となってきたし、企業スポンサーのおかげで入賞者の賞金も必ず保証されてきた。つまり、こうした種目ではファンたちの存在は自然に経済効果を生んできたのである。

 しかし、卓球や水泳、体操といった種目は、昔から中国では人気種目の一つであるものの、実は業界団体がイベントを開いても入場料を払って観に来る観客はほとんど期待できない。たとえ観客がいっぱいに入ったとしても、それは公的機関による動員や、無料チケット配布などの行為が習慣化している。そのおかげで、わざわざ高額なチケットを買い求めて試合を見に行くという意識が「ファン」の間に育っていない。

 その結果、経済効果の差は歴然となっている。中国メディアが引用する例でご紹介すると、プロ選手の収入を見ても、2016年の卓球トップ選手だった劉詩ブン(「雨」かんむりの下に「文」)選手の年収は699万元(約1億円。以下、レートは当時のもの)だったのに比べ、当時の人気男子バスケットボール選手は1000万元(約1億5000万円)、2000万元(約3億万円)を軽く稼いでいたとされる。

 こうした歴然とした「経済格差」の中で、種目別協会は競技人気を高めようと、金メダルや人気選手の話題を投げ込み、火に油を注ぐように飯圏を煽ったと言われている。

 しかし、今回の「事件」をきっかけに、中国のスポーツ総局は傘下の各種目別協会に対して、飯圏活動への厳しい対処を厳命した。それを受けて、体操協会、卓球協会が次々に「過剰なファン行為」に対し、「刑事罰も含めた処分を行う」と取り締まりを行っていくことをわざわざ宣言したが、それは実のところ、それぞれの協会による「立場表明」でもあった。

 いったん燃え上がった飯圏は、このまま沈静化していくのだろうか。中国のスポーツ業界は大きな困難に直面している。

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