自動車メーカーは、半導体メーカーのためにクルマを造っている?

 しかし、そういうこの方の会社も、円安を背景に空前の利益を上げているのです。商品ポートフォリオも時代にピッタリ適合し、給料もボーナスも業界トップクラス。本来なら文句もグチも出ようはずがありません。いったい何がお気に召さないのでしょう。

「クルマなんてさ、もうおたくらのために造っているようなものだよ」
「我々のため?それはどういう……?」
「クルマの製造原価を知っているかい?」

 数ある工業製品の中で、クルマの製造原価が並外れて高いことは、部外者の私でも何となく知っています。

「どうでしょう?販売価格帯にもよりますが、販売価格の半分程度でしょうか?」
「いや。実際はもっと高い。だが販売価格による、というのが正解だ。概して、安いクルマの原価率は高く、高いクルマの原価率は低い。要するに高いクルマの方が儲かる。僕がこんなことを言うのもアレなんだが、鉄にアルミにガラスに樹脂。軽自動車も高級車も、使っている素材なんて大して変わらんからね」
「そういうものですか」
「そういうものさ。その原価の中で、高い割合を占めるのが半導体だ。半導体と電子部品。この比率がどんどん高まっている」
「そうですね。自動運転や衝突安全に欠かせないのはもちろんのこと、シートの前後や窓の開閉のような単純動作にも、マイコンが必要ですから」
「もう置き場所がないくらいさ。(半導体を多用する)高級車になると、Bピラーの中にユニットを収納しているくらいなんだ」

 さまざまな動作をコントロールする頭脳の部分が増殖し、ついにはドアとドアの間の柱(Bピラー)の中にまで置いているというのです。これには驚きました。