ご存じの方も多いかもしれないが、鉄道の保守・点検で実際に作業にあたっているのはJRの社員ではない。建設業界における大手ゼネコンと同じで、彼らはあくまで仕事を発注する側であり、「現場監督」であって、実際に作業を行っているのは各JRの子会社、あるいはそこから下請け、孫請けをしている「協力会社」である。

 近年、このような「多重請負ピラミッド構造の下層」では働きたくないという若者、もしくは働いたとしても作業の過酷さからすぐに辞めてしまう若者が急速に増えている。

 それがよくわかるのが、2005年のJR西日本の福知山線脱線事故から15年の節目で放映された、関西テレビの特集《鉄道の安全を支える「メンテナンス部門」で…『深刻な人手不足』 脱線事故から15年、現場での「課題」》(2020年4月24日)である。

 VTRではJR西日本の近畿統括本部施設課の課長が、保守作業の中核を担う軌道会社(鉄道の線路全般の補修・新設・改良を行う会社)の作業の過酷さから、若い世代が定着をしないという構造的な問題を指摘し、ある軌道会社では作業員が2018年までの10年で23%も減少したことを明かした。

 そう聞くと、「これだから最近の若者は」とか「何かとつけてパワハラだ、働き方改革だと若い連中を甘やかしてきた結果だ」と顔をしかめる昭和のド根性世代も多いだろうが、実はこの問題は「気合」や「忍耐」で解決できるものではない。