新幹線の保守作業は基本、終電から始発までという深夜の間に行われる。それはつまり、一般的な企業で働く親が、子どもと唯一ゆっくりとした時間を持てる「夕食」や「夜の一家団らんの時間」が持てないということでもある。また、昼間も夜の仕事のために休息を取らないといけないので、学校行事の参加や家族でのレジャーも難しい。

 さまざまな調査で今の20〜30代が、プライベートや子どもとの時間を重視する傾向があることがわかっている。保守作業に若手が定着しないのは、「深夜作業」を敬遠している可能性も高いのだ。

 それが伺えるのが、JR各社の対応だ。例えば、JR西日本は2020年4月から古いレールから新しいレールに交換するなどの保守工事を昼間も始めた。これは作業の効率化で工期の短縮が図れるほか、「人手不足対応」や「労働環境の改善」もある。こういう言葉を使われるとぼやかされてしまうが、「このまま深夜の保守作業を続けていると、若手が定着しない」というのが本音だろう。

 ただ、新幹線の場合、このような「保守作業を深夜から昼間へ」という動きがなかなか進められない現実がある。

 日本の新幹線は世界一の正確さと運行間隔の短さがウリで、「遅延や運休がないのが当たり前」となってしまった。日本中のビジネスのスケジュールが「新幹線のダイヤ」を基準に組まれている。「労働環境改善のため、保守作業を昼間にやるので運休しますね」が国民感情的にすんなり受け入れられない現実がある。

「お前らのワガママのせいで、どれだけ迷惑がかかったかわかっているのか」「新幹線が運休したせいで、大事な商談がパアだ!どう責任をとってくれるんだ」なんてモンスタークレーマーたちが窓口に押し寄せるだろう。