例えば、2022年9月の《「技能実習生の税金は免除して」日本がベトナムに足下を見られてしまう本当の理由》の中で詳しく指摘したが今、建設や介護の現場などで働くベトナム人技能実習生から、日本人から受ける暴言・暴力、さらにパワハラ被害を訴えるケースが増えている。また、残業をたくさんしても20万円そこそこという日本の低賃金に嫌気が差して、「これなら安くてもハノイやホーチミンで働いた方がいい」と日本から去る者もいる。

 このような問題は「鉄道」で働く外国人労働者でも確実に起きるはずだ。

 例えば、22年12月、JR東海の子会社で新幹線の保守作業も行っている東海交通機械でパワハラが認定された。米原営業所で新幹線のメンテナンス業務を担当していた男性従業員が指導役から、「いつ退職するのか」と頭をたたかれたり、土下座を要求されたりして、適応障害と診断された(読売新聞 2022年12月24日)。

 これまでの他業種での外国人労働者の扱いを踏まえれば、鉄道で働く外国人も同じような被害を受ける可能性は高い。しかも、そこでまだ高収入ならば、歯を食いしばって我慢できるだろう。しかし、年収300万円程度では日本に来るための借金を返済したらスズメの涙ほどしか残らない。「こんな仕事、やってられるか」と堪忍袋の尾が切れてしまうだろう。

 そして、そのような中には「どうせもう辞めて、祖国に帰るからいいか」と安全点検をいい加減にしたり、作業の手抜きをしたりする者だってあらわれるかもしれない。外国人なので日本人ほど「新幹線の安全運行」に思い入れもなく、しかも、職場で毎日のようにパワハラをされたり、罵声を浴びせられたりすれば、日本人への憎悪も膨らんでいくので、「被害者」の中には意図的にいい加減な仕事をする者もいるだろう。

 つまり、この分野の「日本の若者が嫌がるほど低賃金」「深夜作業に象徴される重労働」が改善されないまま、それを外国人労働者に肩代わりさせていくことは、運休や停電、連結が外れたくらいで済まない深刻な「インシデント」を招いてしまう恐れがあるのだ。