――中学の3年間をかけて「銀の匙」(中勘助著)を読み解くという灘の橋本武先生の授業が有名でした。

 そうですね。私立はそれができますから。やはり、一部分だけ切り取って出してしまうと、結果として意図と違う答えになる可能性があります。

 それに昨今の教科書に収録するような作品では、ひとり親や生活保護の問題などは出しづらいようです。教科書で読むとなると該当者がいる可能性を考えますから。

 私立ではそうした制約が少ないですが、公立の場合は比較的無難な文章を選ばざるを得なくなります。そうすると、世界で起きている様々な問題も、子どもたちは実感を持ちづらくなってしまうのです。

 実際に現地に行ける人はいいけれど、行けない人もいるわけで、そういう場合は本を読むことで、世界で起きている現実を知ることができる。正しく読む力というのは、世界を正しく認識する力とも言えますね。

――情報過多の現代では、正しい情報を得て、自分の頭で考えるということが必要になりそうですね。次回は情報に振り回される親の悲劇をお話しいただきます。

広野雅明さん
SAPIX教育事業本部本部長。SAPIX草創期から、一貫して算数を指導。算数科教科責任者・教務部長などを歴任。現在は、入試情報、広報活動、新規教育事業を担当。