政府は16日、関税・外国為替等審議会(外為審)を受け、英投資ファンドのザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド(TCI)によるJパワー株の買い増し(9.9%から20%へ)の中止・変更を勧告した。外国為替及び外国貿易法(外為法)が現行制度に改められた1980年以降、初めてのことだ。

 「あのときすでに予測された未来だった」――。ある電力会社の首脳は今回の騒動に冷ややかな視線を送る。小泉政権下の2004年10月に完全民営化、株式上場を果たすまで、Jパワーは株式の3分の2を政府が、残る3分の1を電力九社が保有する特殊会社だった。電力九社は上場後も継続保有を主張したが、閣議決定によって放出を余儀なくされた経緯がある。冒頭の発言には、われわれが持ち続けていれば、TCIなど外国人に40%も買い込まれることはなかったはずだ、との思いが滲む。

 51年以降、永々と続く九電力体制のなかで産み落とされたJパワーにとって、監督官庁である経済産業省からも、九電力からも解き放たれる自由は、悲願だったに違いない。

 だが、国内の基幹送電線網や周波数変換所を保有し、まして青森県大間町に使用ずみ核燃料を再利用するプルサーマル専用の原子力発電所を新設するという、国のエネルギー政策を担いながら、“丸裸”で市場に飛び出してしまった。不幸にも上場が新会社法施行より2年早かったために、譲渡制限付きの黄金株を利用することもできなかった。

 それにしても「いざ株式を買い漁られると、それは困ると国に規制をすがる構造は、明らかにおかしい」(証券会社幹部)とは、誰でも思う。TCIにすれば、なおさらだろう。

買い増しから増配へ
TCIの戦術転換?

 「公の秩序の維持が妨げられる恐れがある」――。それが今回、外為審がTCIによるJパワー株買い増しを否定した“根拠”だ。具体的には、電力の安定供給への懸念である。TCIは配当の大幅向上を求めており、送電線網の維持補修費用の捻出のための内部留保の蓄積に支障を来すという。なにより、プルサーマルである。TCIはJパワーの原発計画を支持し、議決権を行使しないという提案も示した。だが「担保などない」(経産省幹部)と否定的だ。

 米国、英国、フランスなど主要先進国に目を移せば、電気事業、なかでも原子力発電、送電線網事業は外資規制の適用対象か、もしくは政府が当該会社の株式を保有するか、規制を検討しているか、のいずれかである。なかでも、世界最大の天然ガス会社、ロシアのガスプロムへの脅威論が渦巻く欧州諸国にとっては、それは生命線だ。「今回の買い増しを認めれば、日本は世界の笑いものになる」と財務省幹部は言う。