情報の精度が向上
模試の判定の信頼性も増す

 保護者の受験情報収集能力の著しい向上もまたトレンドと言って差し支えないでしょう。以前のように一つの塾にだけ通い、そこからの情報だけを頼りにするのではなく、雑誌やインターネット、SNSで情報を集めたり、そもそも複数の塾に通うことでより多くの情報を収集し、それらを総合的に活用する傾向が強まっています。その結果、事前の予想と実際の入試結果の相関性が高まってきています。

 それにともない、受験生は複数の塾の模試を受験するのが普通になりました。大手受験塾の模試だけでなく、大手よりも受験者数が少なかったり、受験者の母集団のレベルが異なる他塾の模試も受験するなどして、より正確な実力を把握しようとする傾向にあります。

 特に、自分のレベルに合った「身の丈の模試」を選んで受験する傾向が強まっており、そのことで模試の合格判定精度も向上しています。

 その結果、秋以降の模試結果が合格を占う大きな要素となり、かつては珍しくなかった「一発逆転」的な合格が出にくくなっています。より多くのデータに基づいた正確な受験指導が可能になってきたのです。

 塾側も個々の生徒に対するよりきめ細やかなフォローや、データ重視の必要性を認識しており、模試データの精度が向上するなかで、どのように個別最適化した指導を行うかが新たな課題となっています。

 今後は少子化の影響で、中学受験ブームも収まるのでは、あるいは、私立中学は生き残りが厳しくなるのではと考える向きもあるかもしれませんが、芝浦工業大学柏(千葉県柏市)や日出学園(千葉県市川市)など、地域における進学校ニーズに応えたり、洗足学園(神奈川県川崎市)のように音楽大学の付属校でありながら系列大学以外への進学指導にも力を入れるなど、実際には新しい施策によって活気を取り戻している学校も多くなっています。

 大学や高校がある強みを生かして中学を新設したり、医学部や海外大学への進学に注力する新しいコースを開設したりもしています。こうした学校は新設の話題作りで終わらせず、継続的な努力で着実に成果を上げており、その前向きな姿勢に保護者の新設校や新コースへの興味も増幅させています。

 結果として、伝統校対新興校という単純な対立構図に収まることはなく、それぞれが特色ある選択肢として捉えられるようになってきています。偏差値上位校の人気が、その他の学校衰退につながったり、新興の学校の躍進で、伝統校が落伍したりするというわけではなく、それぞれにバランスの取れた発展を遂げていると見ることができます。

 こうした現状に鑑みれば、「○○くらいの偏差値の場合、どの学校がいいですか」という質問に対する唯一無二の答えはありません。芸術教育を重視する人にはA校が、スポーツ施設の充実を求める人にはB校が、アクセスの良さを条件にする人にはC校が、宗教教育を重視する人にはD校が、部活動や課外活動の選択肢の豊富さに価値を置く人にはE校、放課後の学習サポートなど学校の面倒見のよさに惹かれる人にはF校、豊かな自然環境の中でのびのび育ってほしい人にはG校が、ICT教育の先進性ならH校が……というように、どの偏差値帯にも本当に多種多様な学校があり、お子さんひとりひとりの個性や、どういう環境で学ばせたいかというニーズによって選択肢は無数にあるからです。