橘玲の日々刻々 2013年5月23日

国民年金基金の欠陥を補う改革試案
[橘玲の日々刻々]

 91年の設立当初の予定利率は厚生年金基金などと同じ年5.5%だった。その後、低金利と株価の下落で運用に苦しみ、95年に4.75%、00年に4%、02年に3%、04年に1.75%と予定利率は引き下げられてきた。その結果、同じ加入者でも運用利回りに最大で年率3.75%もの“格差”があるという異常な事態になっている。

 高インフレと高金利は、国民年金基金の資産を紙くずにするのではなく、こうした矛盾を解消して制度を正常化する可能性が高い。基金は利差益を、予定利率の低い加入者から優先的に配当していけばいいからだ。

 仮に高インフレで国債利回りが10%を超えるようなことがあれば、「国民年金基金はインフレに無力」との批判とは逆に、基金が抱える深刻な矛盾はすべて解決されてしまうだろう(たぶん)。

 それでは、国民年金基金の真の問題はどこにあるのだろうか。

(2)積立不足で制度が存続できなくなる

 国民年金基金は、2011年現在で2兆7000億円の資産を保有しているが、同時に1兆4000億円の積立不足になっている。本来は4兆1000億円の資産がなければならないのが35%も不足しているのだ。

 この事実が新聞などで大きく報じられ、またAIJ投資顧問の年金資産消失事件でサラリーマンが加入する(一部の)厚生年金基金の破綻が社会問題になったことから、国民年金基金の加入者のあいだでも不安が広がった。

 ここで基本的なことを確認しておこう。国民年金基金と厚生年金基金ではふたつの大きなちがいがある。

 ひとつは、国民年金基金には代行運用部分がないこと。

 厚生年金基金は制度上、厚生年金の一部を預かって代行運用しなければならくなっており、中小企業が業界ごとに設立した総合型の基金では、この代行部分の赤字(積立不足)だけで年金資産が実質的に消失しているところも多い。このような基金を解散するには各企業が代行部分の赤字を清算しなければならないが、それを強制すると倒産してしまうため、生殺しのような状態で放置するほかなくなった。

 それに対して国民年金基金には代行運用部分がなく、すくなくとも加入者の知らないあいだに資産が消失するようなことはない。

 もうひとつは、実際の年金支給額が少ないこと。

 厚生年金基金も国民年金基金と同じ確定給付型なので、過去の加入者に約束した高い利回りで年金を支給しつづけなくてはならない。それによって財務が痛み、破綻へと至るのだが、国民年金基金は設立が91年でまだ20年ほどしか経過していないため、本格的な年金の支給が始まっていない(年金受給者の数が少ない)。

 「積立不足が35%」というと、運用の失敗によって自分が納めた掛金が7割以下に目減りしてしまったように感じられるだろうが、これは誤解だ。積立不足は責任準備金に対するもので、これは約束した予定利率で加入者に年金を支払う場合に理論上必要とされる金額のことだ。

 ここは大事なところだが、国民年金基金が現在保有する資産は、加入者が納めた掛金の総額を上回っている(東京都国民年金基金に電話で確認した)。

 AIJ事件で問題になった一部の厚生年金基金は実質的に破綻しており、加入者の掛金はすべて消失しているから、解散しても1銭も戻ってこない(さらには会社に代行部分の赤字を埋める義務まである)。それに対して国民年金基金の積立不足はヴァーチャルなもので、実態としてまだ黒字を維持している。

 もちろんほとんどのひとは、このような(国民年金基金と厚生年金基金の)ちがいを理解できない。あぶなそうなものには近づかないというのが人間の本性だから、実際、国民年金基金の加入者数は、03年の79万人から52万人(11年)へと年々減少している。

 こうした状況が続くようなら、ヴァーチャルな積立不足はやがて現実の赤字になって、基金の運営が行き詰まるのは避けられない。

 加入者が増えない理由は、予定利率が低いことと、積立不足があまりにも大きいことだ。1.75%の利息を得るためにつぶれそうな銀行に大切なお金を預けるひとはいないだろうから、これは当然のことだ。そのうえ定期預金や生命保険(年金)は一定のペナルティを払えば解約できるが、国民年金基金はどのような事態になっても解約して資産を保全することができないのだ。

 それでは、このやっかいな問題をどうすればいいのだろうか?

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 <執筆・ 橘 玲(たちばな あきら)>

 作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 究極の資産運用編』『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券編』(以上ダイヤモンド社)などがある。ザイ・オンラインとの共同サイト『橘玲の海外投資の歩き方』にて、お金、投資についての考え方を連載中。

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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