橘玲の日々刻々 2013年5月23日

国民年金基金の欠陥を補う改革試案
[橘玲の日々刻々]

 もっともかんたんな解決法は、いますぐ解散して加入者に資産を返すことだ。安倍バブルで株式も債券も価格が上がっているので、いま国民年金基金を解散すれば、掛金にそれなりの配当を加えた額が払い戻されるだろう。だったらその方がいいと考える加入者も多いのではないだろうか。

 基金の解散が無理だということなら、あとは商品設計を変えるしかない。そしてこれは、じつはそれほど難しいことではない。

 先に述べたように、基金が大幅な積立不足に陥ったのは、過去に約束した予定利率が高すぎるからだ。この予定利率を現在の1.75%まで引き下げてしまえば、積立不足のほとんどは解消して財務はたちまち健全化する。もちろん高い予定利率の加入者は激怒するだろうが、基金が破綻すれば元も子もないのだから、誰かが責任をとって納得してもらうしかない。

 国民年金基金の問題が顕在化しないのは、高い予定利率で年金を受給するひとがまだ少ないからだ。しかしあと5年もすれば、設立当初の予定利率5.5%で加入したひとたちが年金を受け取りはじめる。

 ところで、支払を約束した年金が月15万円で、分配できるお金が10万円しかないとすると、足りない5万円はどこから持ってくるのだろうか。

 恐ろしいことに、現在の基金の仕組みだと、この5万円は新しく加入したひとの掛金を充てるしかない。これは基金が加入者ごとの個別勘定になっていないからで、要はねずみ講と同じだ。

 国民年金基金は現在、テレビCMなどを使って加入者を増やそうと躍起になっているが、新規の加入者にこうした実態を正確に説明しているとは思えない。

 金融商品取引法では、金融商品の販売にあたって金融機関はリスクや費用の説明を義務づけられており、それに違反すれば売買契約は無効になる。また消費者契約法では、消費者の利益を一方的に害する条項は無効とされているが、加入者の資産が現実に毀損しているにもかかわらず解約を認めないとすると違法と判断される可能性が高いだろう。

 国民年金基金はそもそも、国民年金の加入者が安心して老後を過ごせるようにつくられた制度だ。その趣旨は素晴らしいとしても、現実には加入者を不安にするという皮肉な事態になっている。このようなことが起きたのは、もともとの商品設計が間違っていたからだ。

 それなら、どのような商品設計ならひとびとが安心して利用できる(より効果的に将来のための積立にNudgeできる)ようになるのだろうか? 最後に、私的な提言を述べておきたい。

 まず基本になるのは、現在のどんぶり勘定から加入者ごとの個別勘定に変えることだ。どのような理由であれ、加入者の掛金を別の加入者の年金に流用するようなことが許されるはずはない。そのような可能性はあらかじめ制度的に封じておくべきで、運用に失敗したらねずみ講になってしまうようでは欠陥商品といわれても仕方がない。

 年金を個人勘定にするには、現在の確定給付から、将来の受給額が運用成績に応じて変動する確定拠出型に変える必要がある。これなら基金が運用リスクを負う必要はないから、どのような経済状況でも破綻することはない。

 確定拠出型の年金では加入者が資産運用のリスクを負うことになるが、国民年金基金に加入するひとの大半は株式や為替でリスクをとろうとは思わないだろう(そのためには別に個人型確定拠出年金制度がある)。

 そうであれば、国民年金基金はインフレのリスクをヘッジすることに徹して、資産のすべてを物価連動国債で運用することにすればいい。

 物価連動国債は消費者物価指数に応じて元本が増減するため、物価が10倍になれば元本も10倍になって償還される。個人はファンドを通じて購入するが、このときに問題なのは、(物価の上昇によって)実質利益が変わらなくても、税法上は名目利益に対して課税されてしまうことだ。

 物価連動国債を100万円購入して、償還のときに物価が10倍になっていれば1000万円で償還される。これは損も得もないが、名目上は900万円の利益を得ていることになるので、税率を20%とすると、180万円が課税されてその分だけ資産が目減りしてしまう。

 国民年金基金なら、消費者物価指数を基準として、実質利益がない場合は非課税にすることも可能だろう。これなら、個人で物価連動国債(ファンド)を購入するのと比べてきわめて大きなアドバンテージだ。

 アベノミクスで異次元の金融緩和が始まって、ひとびとは将来のインフレを警戒するようになってきた。そんなとき、掛金が全額税額控除されて、非課税で複利の運用ができ、受給時には実質利益にしか課税されない積立型の年金があれば、すくなくとも合理的な投資家であればよろこんで加入するだろう。

 国民年金基金は、正しい商品設計をすればひとびとの老後の生活を改善する大きな可能性を持っている。

 今後、高い予定利回りの年金受給者が増えて資金が流出しはじめれば、事態はますますやっかいになっていく。80年代バブルの再来や、巨額の利差益が出る高インフレ(高金利)を待っている余裕はない。

やるべきことは決まっており、残された時間は少ない。あとは決断するだけだ。

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 <執筆・ 橘 玲(たちばな あきら)>

 作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 究極の資産運用編』『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券編』(以上ダイヤモンド社)などがある。ザイ・オンラインとの共同サイト『橘玲の海外投資の歩き方』にて、お金、投資についての考え方を連載中。

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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