来年4月に消費税率が5%から8%に上がるのに合わせて審議されていた消費増税転嫁法案が衆院を通過し、今国会で成立する見込みとなった。仕入れ先業者への価格転嫁を防ぐため、小売業者に対して「消費税還元セール」などを謳う宣伝、広告を禁止するという同法は、ただでさえ円安の向かい風に晒されている大手スーパーなどにとって、泣き面に蜂となる。問題は、業界からの反発などにより、同法の成立が「玉虫色」のイメージで決着したこと。「どんなセール名なら安売りをしてもいいのか、よくわからない」と嘆く小売関係者は多い。今後、スパーなどの安売りが減れば、厳しい家計をやりくりする世の主婦たちにとっても少なからぬダメージとなりそうだ。いったいどんな法律なのか、業者は安売りを続けることができるのか。改めて論点をまとめたみた。(取材・文/本多カツヒロ、協力/プレスラボ)

消費増税転嫁法案が衆院通過
「安売り禁止法」と危惧される背景

 安売り禁止法案、衆院で可決――。5月17日、こんなニュースがお茶の間に流れ、不安を持った人も多いのではないか。

 もっとも、厳しい家計をやりくりする世の主婦たちにとって頼みの綱となる、スーパーなどの安売りを全面的に禁止する法案ではない。これは、2017年3月31日までの時限的措置で、正式名称を「消費税の円滑かつ適正な転嫁のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」(通称:消費増税転嫁法)という。賛成多数での衆院通過により、今国会で成立する見通しとなったこの法律、いったいどんなものなのか。

 一口で言えば、来年4月に消費税率が5%から8%に上がるのに合わせ、小売業者が商品仕入れ時に、仕入先の業者に対して消費増税分の価格転嫁(価格上乗せ)を拒否することを禁止し、また小売業者が「消費税還元セール」などを謳う宣伝、広告を行うことを禁止するというものだ。業者がこれに違反すると、公正取引委員会などの指導が行われ、それに従わなければ公取委によって会社名を公表される。

 過去の増税時には、納入先の中小企業に増税分の転嫁を認めず、浮いたコストを自社の安売りの原資として客集めを図る大手小売業者が多く見られた。本来は、そうした流通業界の悪習を廃し、中小企業が多い納入業者を保護することが目的の法案なのである。

 しかし、アベノミクスの真の効果が見えず、依然として消費者のサイフのヒモが固いご時世で、お客集めの定番戦略だった安売りを制限される小売業者の不安は大きい。大手スーパーなどを中心に、「まるで安売り禁止法ではないか」「消費税還元セールを制限されたら売上が減り、業績に大きな影響が出かねない」と猛反発が起きている。