クリステンセンは、「イノベーションに必要な資質は後天的に育成可能である」という研究結果を明らかにした。ならばなぜ、イノベーションはこれほど成功事例が少なく困難なのだろう? クリステンセンの薫陶を受けたアンソニーが、イノベーションを潰してしまう4種類のイニシアチブを特定する。


 昨今、イノベーションの必要性を意識しないビジネスリーダーなどいないだろう。だが、それほどイノベーションを重要視しているのに、実現できず苦労している企業が多いのはなぜだろうか。

 人材の問題だ――こう反射的に答える人がいる。つまり、多くの人はイノベーションの実現に必要となる資質を持ち合わせていない、という考えだ。私はこの見解を認めない。クリステンセンらの研究「イノベーターのDNA」によれば、ほぼ誰もが(十分な訓練によって)有能なイノベーターになれるという。ごく平凡な個々人が、創造性を発揮し、画期的アイデアを生み出し、世界的なイノベーターたちと同様の粘り強さを見せる例を、私は数えきれないほど目にしてきた。

 だが、そうした人々が有効となるのは、適切な状況が整っている場合のみである。そして皮肉なことに、イノベーションを促進するためにビジネスリーダーたちが行うことの多くは、実はイノベーションを殺してしまっている。社内を注意深く観察すれば、意図せずイノベーションを潰している4種類のリーダーを特定できるだろう。

1. 「カウボーイ」型

「イノベーションに限界はない。優れたアイデアであれば何でも歓迎だ」――創造性とイノベーションを歓迎する企業文化を醸成したくてたまらないリーダーは、しばしばこうした無鉄砲な言葉を口にする。もちろん、企業は限界や決められた範囲にとらわれず、常に可能性を探っていかなければならない。しかしどの企業にも、絶対に実現できない物事というのはある程度存在する。「イノベーションに限界はない」という言葉は、率直に考えれば商業化の見込みがないアイデアを生むことに時間を浪費することにつながるのだ。

 そうではなく、焦点を絞った課題を与えるほうがよい。たとえば、ネットフリックスは数年前、顧客への映画推薦システムの精度を10%以上向上させたチームに、100万ドルの賞金を与えた。250を超えるチームが応募し、うち2チームが目標を達成した。集中はイノベーションの友である。

2. 「グーグルびいき」型

 勤務時間の一部を新たなアイデアの創出に使おう、という3M(15%)やグーグル(20%)の方針に触発された経営幹部は、自社の全従業員にも、イノベーションに幾ばくかの時間を割くよう要求する。そのために、毎月第3金曜日の半日をイノベーションに専念する時間に定めたりするかもしれない。これは、イノベーションへの広い参加を促す開放的な取り組みに思える。だが、組織にアイデアを取捨選択し育てる高度な仕組みがない限り、うまくいくことはめったにない。こうした取り組みは多くの場合、決して採用されない長大な提案リストを生むだけだ。すぐに冷笑的な空気が蔓延し、この「イノベーションの金曜日」を無視する口実を探す従業員は増える一方になるだろう。

 代替案として、少数のメンバーを選び、イノベーションにたっぷり時間を費やしてもらうべきである。新規事業の成功率は非常に低い――たとえ起業家たちが、日々のすべての時間を費やして事業に打ち込んだとしてもである。1人の人間が、持てる時間のすべてをイノベーションに費やすことは、1000人が10%ずつ費やした場合に勝ることが多い。常に算数通りにいくとは限らないのだ。