ところが円高不況を恐れた日銀は、公定歩合を86年11月から89年5月まで、なんと2年半も低め(2.5%から3.0%)に据え置いた。89年5月にようやく引き上げ始めたのである。マネーサプライ(通貨供給量)は87、88、89年度の3年間、毎年前期比10%増を続けている。つまり、好況下に金融緩和を継続したことになる。

 これらのマネーは資産(株・不動産)市場に流れ込み、空前の資産バブルとなった。日経平均株価のピークは89年12月末の3万8915円である。地価は1年遅れてピークにいたった。2013年前半の株価急上昇は「異次元金融緩和」による資産価格の上昇だから、80年代後半の状況と基本的には同じだ。

 一方、物価はどうだったかというと、86年度の消費者物価指数は前年比伸び率0.0%、87年度0.5%、88年度0.7%と、ほとんど動いていない。物価は上がらず、資産価格が高騰したのである。89年度2.9%、90年度3.1%とマイルドなインフレ傾向になるが、それでもたいした水準ではない。日銀が公定歩合を89年5月まで引き上げなかったのは、消費者物価が上昇していなかったからでもある。

 88年、89年はマネーがあふれかえり、資産価格が暴騰するバブル経済の最盛期だったことがわかる。

 筆者は87年にリヒャルト・ワーグナーの楽劇「ニーベルンクの指輪」全曲(上演に4日かかる)の日本初演(ベルリン・ドイツ・オペラ)に行ったが、4日で16万円のチケットはすぐに売り切れたと記憶する。なんとなく資産価格(マンション価格を含む)が上がると、高額商品の購入が気にならなくなる。経済学ではこれを「資産効果」という。

 レコード(LP、CD等合計)の生産数量(日本レコード協会の統計)をみると、80年の2億7490万枚をピークに、81年から88年まで2億1000万枚から2億3000万枚で低迷するが、89年に2億7454万枚へ急増している。CDは86年にLPを逆転し、87年以降は差を広げていく。

 低価格CDプレーヤー、CDラジカセ、CDミニコンポが大ヒットし、高価なオーディオ機器でレコードを聴く少数の高級なホビーから、レコード(CD)は個人が安い再生装置で個別に聴くスタイルに変わっていった。現在、CDプレーヤーがiPodやスマホに変わっただけで、配信やコピーした音源を個人が聴くスタイルであることに変わりはない。大きな変化は80年代末に現れていたのだ。

 もっとも、デジタル化が進んでも再生される音はアナログなので、最後の音質はアンプとスピーカー、あるいはヘッドホンのクオリティに左右される。しかし、人々は音質に無頓着になってしまった。価格と利便性が勝ったのである。