言わずと知れたベストセラーである野口悠紀雄教授の“「超」シリーズ”。最新刊の『「超」説得法』も好評だ。「一撃で相手を仕留める」ことこそが説得の極意とする本書には、仕事や面接、さらには恋愛に至るまで“使える”テクニックが満載である。同時に、昨今の経済政策論争を読み解く上でも示唆に富む。野口教授にそのエッセンスを聞いた。(「週刊ダイヤモンド」編集部 河野拓郎)

“一撃”こそが説得の極意 <br />「大胆な金融緩和」もその成功例<br />――野口悠紀雄・早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問インタビューのぐち・ゆきお
1940年生まれ。東京大学工学部卒、エール大学Ph.D.(経済学は博士号)取得。大蔵省、一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院教授などを経て現職。『「超」整理法』『「超」勉強法』など著書多数。 Photo by Kazutoshi Sumitomo

──相手を説得するには“一撃”でなければならない、命名や比喩も重要だという内容ですが、古今東西の豊富な実例が印象的でした。

 成功した説得は、非常に短い言葉で、事の本質を明確に言い表している場合が多いのです。

 最近では安倍内閣の「大胆な金融緩和」もそうです。簡単なメッセージで政策の中身を示したという点は、やはりすごいと思います。国民やマーケットが、一撃で説得された。

 過去では、1960年代に池田勇人内閣が提案した「所得倍増計画」もよい例です。

「大胆な金融緩和」も「所得倍増計画」も、政策の中身そのものについては議論の余地があります。しかし、議論を呼ぶこと自体が重要ともいえます。

「大胆な金融緩和」でいえば、ネーミングもうまいですが、中身が具体的なので、論点がはっきりする。物価上昇率2%を言い、さらにこれを受けて、日本銀行の黒田総裁が2年で2%、マネタリーベース2倍ということを言ったわけですが、例えば“物価上昇率2%は実現できるのか”というふうに議論を集中できるし、問題の所在もよくわかる。

 これは民主党政権のときと比較すると対照的です。同党が打ち出した「日本再生戦略」は、名称から中身がわからない。「再生」自体に反対する人は誰もいないわけで、政策の中身を検討する以前の問題として、社会にインパクトを与えることができませんでした。