ブランドの視覚的イメージは消費者に絶大な影響

 店名は、消費者の知覚や期待を形成する上で極めて重要な役割を担う。

 Menguyao Yu氏らによる2024年の論文『ブランドの視覚的アイデンティティが消費者態度に与える影響:体系的文献レビュー』は、ブランドの視覚的要素が消費者に与える影響を詳細に分析している。

 研究は、過去20年間に発表された論文559件を精査し、最終的に34件の実証的研究を対象とした。

 分析の結果、ブランドのロゴ、色彩、名称、タイポグラフィといった視覚的アイデンティティの構成要素が、消費者の知覚するブランド品質、ブランドパーソナリティ、満足度、ロイヤルティ、好感度に大きな影響を与えることが明らかになった。これらの要素は購買意図や社会的態度にも影響を及ぼすという。

 論文が示す知見は、ブランドの視覚要素、とりわけ店名が消費者の認知と態度を形成する上でいかに重要であるかを物語る。効果的なブランド管理には、視覚要素の戦略的活用が不可欠であると結論付けている。

 この観点から見ると、「名代 富士そば」のネーミングは、格式高いイメージという期待を消費者に抱かせることであろう。一方で、実際の店舗体験は、安価なそばという現実を提供する。

 期待と現実のギャップが、ブランドにとって良い方向に作用するか、あるいはマイナスに働くかは一概には言えない。意外性が顧客の記憶に残り、親しみやすさを生む可能性もある。逆に、名前に裏切られたと感じる顧客を生むリスクもはらむ。

 対照的に「ゆで太郎」は、茹でたてのそばを提供するというコンセプトを直接的に伝える。親しみやすい「太郎」という言葉が、大衆的なイメージを補強する。「小諸そば」は、信州のそば処である小諸市の地名を冠することで、本格的な蕎麦を提供するという品質へのこだわりを示唆する。

 これら2つの店は、名前から想起されるイメージと店のコンセプト、提供される商品が一貫している。消費者の期待を裏切らない安定したブランド体験を構築していると言える。

 店名と実態の一貫性は、顧客の信頼を獲得し、リピート利用を促す重要な要因となる。