総資産が増大したパナソニック
営業利益も増加しているが……

 続いて、パナソニックHDの趨勢分析を見てみよう。

図表:趨勢分析(パナソニックHD)
日経NEEDS-FinancialQUESTより筆者作成 拡大画像表示

 上の図によれば、パナソニックHDの総資産は19年3月期、25年3月期においてやや減少しているものの、20年3月期から24年3月期までは一貫して増加傾向にある。このことから、以下のような仮説が考えられる。

仮説3:パナソニックHDにおいては、積極的な買収や設備投資を行った結果として総資産が増大している

 パナソニックHDでは、21年9月にサプライチェーンを最適化するソフトウエアを手掛ける米ブルーヨンダーを総額約79億ドル(有利子負債の返済を含む、ブルーヨンダー公表ベースで約8633億円)で買収している。また、北米においてEV(電気自動車)の車載向け電池工場への積極的な設備投資を行っている。

 パナソニックHDも、20年1月にパナソニックホームズを連結子会社から外すといった事業再編を行っているが、それを上回る額の投資が総資産を増加させているといえる。ただし、総資産の増加が売上高の伸びにはつながっていない点には留意が必要だ。

 パナソニックHDの営業利益については、23年3月期まで低迷していたものの、24年3月期以降の営業利益は拡大傾向にある。したがって、以下のような仮説が考えられる。

仮説4:24年3月期以降のパナソニックHDの営業利益が増加しているのは、買収や設備投資が利益を生み出しているためである

 しかしながら、パナソニックHDの有価証券報告書によると、24年3月期以降の営業利益の増加の大きな要因の一つは、米国におけるインフレ抑制法(IRA)に基づく電気自動車(EV)向け電池の製造・販売に伴う補助金によるものであることがわかる。

 この補助金による増益効果は、24年3月期では約1880億円、25年3月期では約2060億円とされており、これらを差し引くと、補助金を除く営業利益は24年3月期で約2020億円(16年3月期の営業利益を100とすると約49)、25年3月期では約2610億円(同約63)となる。したがって、上記の仮説4については、以下のように修正したほうがよさそうだ。

仮説4(修正後):24年3月期以降のパナソニックHDにおける営業利益が増加しているのは、米国におけるEV向け車載電池事業に伴う補助金の影響が大きい

 ここまで、日立製作所とパナソニックHDの趨勢分析を通じて、両社の戦略的な事業ポートフォリオ改革や投資が、総資産、売上高、営業利益にどのような影響を与えたのかについて見てきた。

 後編では、安全性分析、効率性分析、収益性分析を通じて、日立製作所の事業ポートフォリオの組み換えに対する株式市場の評価や、パナソニックHDが大型リストラを断行することとなった背景について解説しよう。

矢部謙介(やべ・けんすけ)/中京大学国際学部・同大学院人文社会科学研究科教授。ローランド・ベルガー勤務などを経て現職。マックスバリュ東海社外取締役も務める。X(@ybknsk)にて、決算書が読めるようになる参加型コンテンツ「会計思考力入門ゼミ」を配信中。著書に『決算書の比較図鑑『武器としての会計思考力』『武器としての会計ファイナンス』『粉飾&黒字倒産を読む』(以上、日本実業出版社)『決算書×ビジネスモデル大全』(東洋経済新報社)など。
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