コストが想定の何倍もかかる

 開発は、グループのDXを担うオートバックスデジタルイニシアチブ(以下、ABDi)が主導した。

 難しかったのは車体をリフトアップしたときやボンネットを開けたとき、ナンバープレートが物理的に隠れ、AIが読み取れなくなってしまうことだ。

 ABDiの山原猛さんは、「ナンバープレートだけでは不十分だと分かったので、車体も認識するようAIに学習させた。リフトアップと出庫の違いも判別できるようチューニングしていった」と説明する。

オートバックスデジタルイニシアチブ(ABDi) DX・新規事業担当 執行役員 山原猛さんオートバックスデジタルイニシアチブ(ABDi) DX・新規事業担当 執行役員 山原猛さん Photo by M.S.

 約半年でシステムを完成させ、2024年秋には、試験的に7店舗に導入した。

 問題が表面化したのは、運用開始から1カ月後のことだった。動画のデータ処理費用が、想定を大きく上回ってしまった。「私たちは動画配信の専門的な知見がなかったため、一般的に実績のある信頼性が高い技術を選びました。ただ、実際に適用してみて初めて、自分たちの用途には合わないことが分かったんです」(山原さん)

作ったシステムがオーバースペックすぎた

 採用した既存の技術は、YouTubeのライブ配信のように、1人が何万人にも動画を届けることを想定したものだ。しかし「安心ピットカメラ」で必要なのは、1台の車が整備される様子を、その持ち主1人だけが見る「1対1」の配信。オーバースペックすぎたのだ。

 このまま全国のピットに展開すれば、コストは膨らみ続ける一方。かといって、今から方針を変えれば、すでに動いている7店舗のシステムも全部作り変えなければならない。しかし、ここで軌道修正しなければ、全国展開した頃にはもう後戻りできないだろう。

 チームは、システムを根本から作り直すことを決めた。既成のサービスに頼らず、1対1の配信に最適化した環境を自分たちで構築すれば、手間はかかるが、コストは大幅に下げられる。どうすれば実現できるのか。整備事業部とABDiのメンバーは、毎朝8時に集まり、業務後も議論を続けた。「まるで部活の朝練と夜練のようだった」という。

 毎日ひざを突き合わせて議論するうちに、お互いの言っていることが徐々に分かってきた。特に現場のニーズと技術の限界、その両方を理解し合うことで、現実的な落としどころや解決策が見えてきたのだ。