整備の現場とIT部門が分かり合えた理由
こうした密な議論を行うのは、実はそう簡単なことではない。IT部門と現場のコミュニケーションは、多くのDXの現場で課題となっている。業務やITに対する前提知識やスコープが異なるため、議論がかみ合わなかったり、空気が悪くなったりすることも珍しくない。
では、なぜオートバックスセブンでは密な議論ができたのか。その背景には、プロジェクト開始前から進めていた全社的な取り組みがあった。
「安心ピットカメラ」が動き出す少し前、オートバックスセブンは全社員約1000人に、ITとDXの教育を始めていた。具体的には、ITの基礎知識を問う国家資格「ITパスポート」の取得とオンライン動画学習サービス「Udemy」を使った30時間の学習プログラムの推進だ。
「正直に言うと、ITがそこまで得意な会社ではありませんでした」と採用教育部の野口裕司さんは語る。だが現時点で、ITパスポートの取得率は全社員の20%に達した。「Udemy」は、平日1時間やっても1カ月では終わらない分量だが、それでも約90%の社員が受講を完了した。また、一人あたり年間10万円の自己啓発支援金も用意され、これを活用して学ぶ社員が増えているという。
オートバックスセブン 採用教育部 採用教育課 課長 野口裕司さん Photo by M.S.
現場とIT部門が対等に議論できたのは、日常の学習を通して対話のベースとなるIT知識が底上げされていたからだ。「これは技術的に難しい」「それならこういう方法は?」。そんなやり取りがスムーズに進むようになった。
「安心ピットカメラ」が社内で一定の認知を得ると、他部署からもDXプロジェクトのニーズが上がってくるようになったという。販売促進部からは「点検データを接客に活用できないか」、人事部からは「カメラ映像を人材育成に使えないか」。学びと実践が、現場の創造性をかきたてたようだ。
人材育成は今後さらに強化していく方針だ。中でも2023年4月に導入した統合人事システム「COMPANY」に期待を寄せる。すでに勤怠業務の効率化で大幅なコスト削減を実現しているというが、加えて、自動車整備士の資格情報なども一元管理できるようになった。人事部の村田亜矢子さんは、「人的資本経営という観点から、グループ全体でスキルを可視化し、生かすことが大きなテーマ」と語る。
オートバックスセブン 人事部 制度運用課 課長 村田亜矢子さん Photo by M.S.







