ライバル会社が「うちにも導入したい」
2025年4月、「安心ピットカメラ」は全国展開を開始した。9月末時点で293店舗に導入が進み、2025年度内を目途に全国約600店舗の全ピットレーンへの設置を目指している。
「業界全体を良くしたい」と山原さん。「安心ピットカメラ」はすでに同業他社からも引き合いがあるという。作り手が当事者だからこそ、現場のニーズを解像度高く捉えられるのだろう。不正問題で傷ついたのは業界全体の信頼だ。だからこそ、このシステムを広く提供することに意味がある。
導入後、現場からは思いがけない報告もあった。複数の整備士が同時に作業して通常の半分の時間で終わったところ、顧客から「本当にちゃんとやったのか」と不安の声が上がり、動画を見返してもらうことで安心してもらえたという。信頼が完全には回復していない今、現場を守るシステムでもあるということだ。
また、整備事業部の神田直孝さんは、「自動車整備士不足で技術伝承に課題がある中、先輩が後輩の作業を動画でチェックし、アドバイスするなど、人材育成のツールとしても機能し始めた」と語る。
オートバックスセブン 整備事業部 部品機材課 課長 神田直孝さん Photo by M.S.
ビジネス面でも効果が出ている。「安心ピットカメラ」は会員限定サービスのため、その場で入会して車検証情報を登録すれば、1分足らずでカメラ映像を見られるようになる。カメラで作業を確認したいという顧客のニーズが、会員登録を後押ししているという。
顧客からは「遠隔で自分の車が見えるのがうれしい」という声もあり、整備中の愛車の映像がSNSに投稿されるケースも。顧客満足度の向上にもつながっているという。
マイナスの状況からスタートした取り組みが、新たな可能性を生む
プロジェクトは次のステージへと進もうとしている。第2フェーズでは、ピットのタブレットに顧客データを表示し、整備士が作業履歴や購買履歴をすぐ確認できるようにする。そして第3フェーズでは、AIで作業ミスを防止する仕組みを導入する計画だ。
一度地に落ちた業界の信頼。不信感の払拭から始まったプロジェクトは今、現場の課題解決に寄与し、業界全体の信頼を取り戻す力になっている。








