陸自隊員の「木銃」を
あなどってはいけないワケ

 しかし、木銃は陸自隊員にとって、もっとも使い慣れた「武器」だ。木銃とは銃剣道で使う武器で、読んで字の如く銃の形をした槍のようなもの。銃剣道は旧陸軍から伝統の表芸の一つで、突きを主体とする。固い樫でできた木銃の突きは防具の上からでも痣ができるほど。

 無理解な世論に対する小泉防衛相の対応はまたしても早かった。7日には自身のXで「クマ対策のプロである猟友会の皆さんの助言も反映した結果」「ドローンも活用して(中略)万全の監視体制を敷いています」と説明した。

 要は、銃で撃たれて手負いになったクマが最も厄介なので、安全に距離をとってクマを追っ払える装備をチョイスしたということ。体長130cmほどのツキノワグマなら、銃剣道で鍛え上げた隊員であれば、十分に対応できると判断されたのだろう。

 ただ、A氏は「自分を守る小銃を持たずにクマと対峙せざるを得ない隊員は複雑な思いだったでしょう。あまり知られていませんが、演習場ではクマとよく遭遇するんですよ」と語った。

残念ですが、自衛隊に「クマ退治」はできません…現役自衛官が漏らした“銃を使え”論への違和感訓練に臨む陸上自衛隊員(出典:陸上自衛隊公式ホームページ
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 陸自の隊員が訓練するのは山間部にある演習場であり、隊員たちは「ヤマ」と呼ぶ。年間で40日から80日、1回あたり数日から数週間を演習場で過ごす隊員たちは、多くの野生生物に遭遇している。その実態を、A氏は次のように明かす。

「ツキノワグマだけじゃなく、猪、鹿、猿も出ますよ。訓練中にクマを発見すれば、無線で『クマ情報』を報告し、周りの部隊や隊員に周知します。『クマ情報』が解除されるまで車内で待機して、解除されたら訓練を再開するという感じです。今はドローンを飛ばして上空から捜索しているでしょう。ドローン操縦手にとっては良い訓練機会ですね」

「隊員がクマから襲われた話は聞いたことないです。クマが出るのは春から秋なので、その間は警笛を持ったりと備えはします。ただ、演習中は空砲を持っており、クマと出会えば発砲して威嚇することもできるので、正直なところ怯えていないというか、意識していないですね」

 実は自衛隊員は、日頃からクマなどの野生動物に接する機会が多く、門外漢ではないのだ。その上、クマに関する情報を部隊で共有したり、警笛や空砲で追い払ったりするなど、うまく対処する術も心得ている。

 にもかかわらず、ヤマで培った能力をフルに発揮できなかった上、ネットで失笑されたのだ。このことに対し、思うところがある自衛官もいるに違いない。