陸自が装備する銃では
クマを退治できない!?
では、自衛隊によるクマへの銃器使用が解禁され、自衛官が悔しさを晴らせる日は来るのか――。今後を占う上で、一つ興味深い視点がある。
北海道の陸自部隊に所属するB氏は、万が一銃器使用が解禁されたとしても、陸自が装備する「20式5.56mm小銃」が大型のクマには通用しない可能性を指摘する。
「仮に小銃を持っていたとしても、5.56ミリの軽い弾丸では(クマへの)ストッピングパワーが足りません」(B氏)
ストッピングパワー(阻止能力)とは、弾丸が標的(人間や動物など)を即座に無力化する能力のことで、一般に運動エネルギーで説明される。
20式5.56mm小銃 Photo:PIXTA拡大画像表示
上述の20式小銃の弾丸重量を4.0グラム、初速を秒速920メートルとすると、運動エネルギーは約1690ジュールになる。陸自の「対人用狙撃銃」であるM24狙撃銃(約3356ジュール)と比べると、20式小銃のストッピングパワーは半分程度なのである。
これに対し、狩猟界ではクマのような危険動物には4000~5000ジュールを推奨している。20式小銃だけでなくM24狙撃銃ですら物足りない。加えて、貫通力を重視した軍用の弾丸は、狩猟用の弾丸のように体内に入ってマッシュルーム状に変形または炸裂しないため、殺傷力が小さい。
もっとも、B氏が住む北海道に生息するヒグマは、本州に生息するツキノワグマよりもさらに大型かつ狂暴である。北海道と本州の“クマ事情”の違いは差し引いて考えるべきだが、B氏の指摘もあながち間違いではない。
「なぜ自衛隊は銃でクマを駆除しないのか」と批判していた方々は、「軍用」と「狩猟用」では武器の威力や特性が異なることも知っておいていただきたい。
自衛隊にもできることと
できないことがある
最近の災害派遣の風潮を「自衛隊は便利屋じゃない」と批判する意見がある。この意見の是非は横に置いて、自衛隊が「何でもできる」わけではないことは、小銃のストッピングパワーからも明らかだ。
もし小泉防衛相が世論におもねって、小銃や狙撃銃を持った陸自部隊にクマ狩りを命じていたら、致命傷を与えられず逆上させ、隊員が犠牲になっていたかもしれない。自衛隊は部隊の練度や装備の能力をよくわかっているため、「狙撃手を派遣しようという声は全く上がらなかった」(A・B氏)という。







