小嶋氏の行動は厳格であった。弟である岡田卓也氏の秘書だけでなく、他の役員の秘書についても、短期間での異動を義務付けたのである。『イオンを創った女』には、「自分の秘書を1、2年で転勤させ、他の役員秘書もそうさせた」という具体的な事実が記されている。
通常、1つの職務に長く就き経験を深めることが良しとされる社会で、なぜ秘書という機密性の高い職務を短期間で終えることを強制したのだろうか。
秘書を1、2年で異動させないとヤバい?
小嶋氏の考えには、組織の病を未然に防ぎ、同時に有能な人材を育成するという、二重の戦略的な目的が込められていた。
まず、組織のモラルが低下するのを防ぐという側面である。
秘書や側近の職務は、トップのスケジュールや重要文書を扱うため、「公」の仕事と「私」的な部分がどうしても混ざってしまう。この状況が長く続くと、2つの大きな弊害が発生する。
1つは、秘書や側近自身が、トップの権威を背景に思い上がり、組織内で過剰な権力を行使し、やがて「お局」や「茶坊主」のような存在が生まれてしまうことである。もう1つは、トップの情報を目当てに、秘書や側近に近づき、忖度や根回しをしようとする人々が増えることである。
小嶋氏は、これらの行為が「いずれも会社を腐らせる原因・遠因になる」と見抜いていた。
秘書を短期間で異動させることは、特定の人物に権力が集中し、組織のモラルを低下させる悪しき習慣が根付く前に、構造的にその芽を摘むための極めて強力な予防策であった。
次に、人材育成という積極的な目的である。
小嶋氏は、秘書という職務を「若手の有能な人物を選定して、錬成の場としてローテーションすべきである」と捉えていた。トップの判断や経営全体の動きを最も近くで学ぶ経験は、若手にとって非常に貴重である。
小嶋氏は、秘書という学習効果の高い経験を多くの有能な人材に短期間で積ませ、育成を加速させようとした。







