上海は中国でもっとも開放的で国際的な都市であり、多様性がある街だ。これまで、外資誘致や文化的なイベント、ビジネス環境など、常に「中国の顔」として世界に向けてアピールしてきた。中国でもっとも多くの外国人が居住していた都市でもある。
その上海で、外国人アーティストの公演が突然中断され、理由の説明もなく強制終了させられたという事実は、「上海ですら自由に文化活動ができなくなったのか」「契約精神のかけらもなく、人や芸術に対しての尊重もなくなった」「上海はもう以前の上海ではなくなってしまった」という深い失望を生んでいる。
同じ上海人として、筆者は上海市民のこのような思いは今に始まったものではないと感じる。振り返ればそのターニングポイントは、2022年だったのではないか。
2022年3月から約3カ月間続いた、ゼロコロナ政策のために実施されたロックダウンが、上海の一つの分岐点だったと考えている。あれからすでに3年の年月がたっているが、あの3カ月の経験は、「振り返るに堪えない」「思い出すと身が震える」というほど、上海市民の心に大きな傷を残した。さらには今回の件で、“上海は中国の中で特別な存在の都市ではなく、中国の数多くある都市の一つでしかないのだ”と思い知らされたという気持ちもある。
先述の浜崎さんのコンサートの中止では、上海のイメージが著しく傷つけられただけでなく、不利益を受けたのは、言うまでもなくファンの人たちだ。「国のトップ同士の喧嘩で生じた不利益を、我々庶民に転嫁しないでほしい」というのが中国人の本音である。
「日本は何も損しない、わが国には得することが一つもない」
中国のネットでは、中国政府の一連の対日報復措置の結果、現時点での状況を踏まえて、「日本は何も損しない、わが国には得することが一つもない」という論調が散見される。
具体的には、「日本に渡航しないように」という国の呼びかけで、中国の航空会社が相次いで減便した。さらには、チケットの払い戻しで、コロナ後にようやく回復しつつあった航空会社の業績が再び悪化する羽目になっている。
損をしているのは航空会社だけではない。乗客は復路のチケットが払い戻しできたとしても、往路便とホテルが無駄になる。何よりも、紅葉の季節を狙って日本への旅行を心から楽しみにしていた人たちが落胆している。
筆者が仕事でお付き合いしている、中国のある大手企業では、12月上旬に東京で開催される「2025国際ロボット展」を見学するため、半年前から準備していたが、今回の事態を受けてやむを得ずキャンセルした。突然、渡航を取りやめるよう通達が来たのだという。彼らが言うには、「日本人が想像する数倍以上、我々が置かれている状況は厳しい。安易な気持ちでは、とても日本には行けない」とのことだ。
他にも、日本に関連するイベントや、文学作品の翻訳出版などもたくさん中止に追い込まれている。これも、結果として、日本の文学作品を専門とする出版社やイベント会社が仕事を失い、業績が悪化するだけである。







