美しいバラには、安易に手を触れようとする者を刺すトゲがあるように、今をときめくアップルというIT企業にも、そこにかかわった企業を苦悩させる“猛毒”が含まれていた――。

かつて米シリコンバレーの片隅で生まれたベンチャー企業は、今や売上高にして12兆3393億円、営業利益で4兆3552億円(2012年度通期)を超える巨大企業に成長した。そして故スティーブ・ジョブズというカリスマ創業者の存在の裏側で、アップルは驚くべき経営を実践している。そこには、多くの人が愛してきたアップルの華やかなイメージを一転させる、獰猛な素顔があった。3回わたりその素顔に迫る。(「週刊ダイヤモンド」編集部 後藤直義、森川 潤)

アップルのニッポン植民地経営の深層(1) <br />“リンゴ色”に染まる巨大工場の苦悩Photo by Naoyoshi Goto

製造装置に貼り付けられた
リンゴ型のシール

「もう工場で作るものが、何もなくなってしまった」

 2013年2月26日、三重県亀山市にあるシャープの亀山第1工場。そこで働くシャープのベテラン技術者たちは、自分の力ではどうすることもできぬまま、この日、巨大な液晶パネルの生産ラインが空っぽになってしまい、途方に暮れていた。

 この鉄筋コンクリート5階建ての工場は、昨年夏から、アップルの最新型のスマートフォン「iPhone5」の美しいタッチパネル式液晶パネルを、月に最大720万台を作ることのできるアップル専用工場としてフル稼働していた。

 工場の外見はそれ以前となんら変わりはなく、亀山市の地元住民もほとんどその内実を知ることはなかった。しかし、ここで働く社員たちは、この大きな工場がどれだけアップルに依存しているかを肌身で感じていた。

 今や、この工場の液晶パネルはアップル1社にだけ独占的に供給するという、異例の契約の下で稼働しているのだ。アップルから毎月送られてくる生産計画をもとに、せっせとiPhone用の液晶パネルを作っては、iPhone本体を組み立てている中国に輸出していた。