崩壊する医療の立て直しを目的とする地域医療再生基金。なにしろ、都道府県に配られるおカネは各50億円、事業期間は5年間とあって、自治体は熱い視線を注ぐ。だが、再生の美名とは裏腹に、その効果には医療関係者からも疑問が投げかけられている。プランを作成した自治体、病院、厚生労働省の舞台裏を探った。

「5年間の中期計画を、5ヵ月でつくるのは非常に難しい。県の医療審議会や議会に話を通す必要もあったため、実際には2ヵ月しか時間がなかった。地域医療再生基金から100億円プランが消えたときは、喪失感しかなかった」

 ある自治体の医療担当者は、翻弄され続けたこの5ヵ月間をこう振り返った。

 今年の6月5日、厚生労働省が各都道府県に通知した地域医療再生基金の計画に、各地の医療担当者は色めき立った。「医師の確保」「救急医療」、さらに病院間の「機能再編」など現在、地域医療が抱える課題は少なくない。地域医療再生基金とは、こうした課題を解決する再生プランを各都道府県が作成し、これを厚労省が認めれば、交付金が支給されるというものだ。

 ターゲットは、全国に369ある“二次医療圏”(通院から入院まで、一定の医療が提供されることを目指す地域の単位)のうち、都道府県ごとに2つのエリア、合計94の地域である。

 当初の計画では、このうち全国の10地域に各100億円、84地域に各25億円、総額で3100億円の交付金が支給されるはずだった。

 しかし、再生プランの提出期限は、10月16日とあまりに短かった。基金が「前政権の選挙対策」と指摘されるゆえんである。

 短期間で再生プランをつくるとあって、もらえるカネを使い切る予算の策定が第一の優先事項で、その中身は当然、ずさんなものとなった。40弱の自治体で練られていた100億円プランの実態は、そのほとんどが新病院建設など大型の“ハコモノ計画”である。

 加えて各自治体が、2つの二次医療圏を交付金支給のエリアとして選ぶ際、エリア選定や再生計画の立案がかなり強引に進められたケースもあった。

 千葉県で対象エリアに選ばれた山武長生夷隅エリア(県東南部)では、病院が入院や手術などが必要な救急患者を輪番で受け入れるための、機能強化が盛り込まれた。だが、「この計画は、誰も聞いていなければ同意もしていない。地区医師会の幹部だけが知っていた」と、当事者となる病院の院長は不満タラタラだ。

 100億円プランの中身を決めるに当たり、「医師を派遣するからと、高額な医療機器の購入台数まで派遣元の大学に決められた」(ある病院院長)ところもある。