潜在成長力を上げなければ
持続的成長は不可能

 経済成長とは、中長期のトレンドの話である。景気刺激策によって需要を拡大してGDPを引き上げることは、一時的な成長率を高めることにはつながっても、持続的な成長を実現することにはならない。資本投資、技術革新、効率的な資源配分などで供給力を高めることにより、はじめて持続的な成長が実現する。

 経済学の用語を使えば、これはサプライサイドの問題ということになる。日本経済が、利用可能なさまざまなリソースを活用して、どこまで生産能力を高めることができるか――これがサプライサイドの問題である。

 経済学者は、経済成長の問題を分析するとき、よく成長方程式と呼ばれるものを利用する。成長方程式とは、次のような簡単なものである。

経済成長率=Σ個々の生産要素の増加率×その要素の分配率+TFP

 この式について簡単に説明しておこう。左辺の「経済成長率」は、通常はGDPの伸び率(物価上昇分を除いた実質値の伸び率)を意味する。

 右辺の「生産要素」とは、資本や労働などを示している。「その要素の分配率」とは、たとえば、労働の分配率であれば、GDPのなかで労働に分配される割合を示す。したがって、右辺の第一項は、資本や労働などの増加率にそれぞれの分配率をかけたものを、すべての生産要素について足し合わせたものである(Σは数列の総和を示す)。

 通常の単純な議論では、生産要素として、資本と労働のみを取り上げることが多い。たとえば、GDPのなかに占める労働分配率が80%、資本の分配率が20%であるとしよう。そして資本が3%で増加し、労働がマイナス1%で増加(つまり1%縮小)したとしてみよう。そのとき、右辺の第一項は、

0.2×0.03+0.8×(-0.01)=-0.002

 となる。つまり、生産要素の伸びで見れば、経済成長率にはマイナス0.2%分の影響が及ぶということになる。