北米市場崩落、急激な円高、原材料高の三重苦に苦しむ自動車産業。そんな中、強気な発言を繰り返してきたのがホンダの福井社長である。経営戦略はもとより、金融危機の影響からビッグスリー救済、新興国メーカーの実力まで縦横無尽にその本音を語ってもらった。

福井威夫 ホンダ社長
福井威夫 ホンダ社長
Photo by K.Sumitomo

―他社に比べ、燃費の良い小型車が多く、需要変化に強いといわれるホンダでさえ、2008年度通期見通しは下方修正しました。昨今の自動車業界を取り巻く環境をどのように考えますか。

 原材料の高騰に加え、為替が円高に振れるなど、変化がすさまじい。直近の状況をみると、為替は一段と円高が進行しており、10月28日の中間決算では、売上高、利益ともに通期予想を下方修正した。販売台数は、市場の状況が厳しい中でも、前年並みをキープしているし、大きな要因にはならないが、何よりも為替と原材料高騰の影響は大きい。

―ホンダを含め、世界の自動車産業は米国市場への依存度が高い。米国の自動車市場が回復する見通しは。

 確かに、米国市場は厳しい。もしかすると、今年は1200万台程度にまで落ち込むかもしれない。来年、2009年は期待できないだろうが、そろそろ底に近づきつつあるのではないかと思っている。

 その拠り所は、1990年の湾岸戦争直後の分析だ。当時、米国の販売台数は激減し、年間1300万台を切った。だが、当時よりも米国の人口は増加している。現在の人口で見直せば、当時の販売台数は、現在の1350万台レベルに相当する。今回の不況は湾岸戦争直後を上回るほど厳しいとの見方もあるが、そうだとしても、2010年以降ならば、回復するポテンシャルはある。

 そもそも米国において、自動車は生活必需品であり、絶対になくてはならないものだ。いつまでも“厳冬期”が続くとは思えない。こういう厳しい時期は、とにかく在庫を持たないこと、売れないクルマは作らないことだ。余剰となりそうなら、ためらわず減産する。大がかりな販売奨励金を使ってまで、無理して販売するようなことはしない。そんなことをすれば、中古車価格が下がり、新車の価格やブランド価値にも影響が出てしまうからだ。

―その市場環境が大変厳しい時期と予想される2009年に、ハイブリッド専用車「インサイト」は、米国をはじめ、日欧でも発売します。その勝算はあるのでしょうか。

 むしろ恵まれた機会だと思っている。インサイトは、低燃費で付加価値が高く、魅力ある商品だ。価格も200万円前後と従来のハイブリッド車よりも安く、きちんと利益も出る。当初、販売台数の見通しは年間200万台と考えていたが、上ぶれする可能性もある。インサイトはホンダの救世主になりうる。ハイブリッドの技術はますます重要になる。