ネット広告関連技術で注目されたエンゲージ社のこと

 2000年、業績好調だったピクチャーテルを辞め、私は初めてインターネットの世界に飛び込んだ。エンゲージ(Engage)と言う会社に関わったのだ。この会社は米国のCMGI(当時、ドットコム企業100社をインキュベートし、世界で最も注目され株価の高かった会社だった)と住友商事の合弁企業であり、私は、CMGIに雇われ、この合弁会社の日本法人の社長になったのだ。就任と同時に、CMGIが完全に経営権を掌握した。

 エンゲージは、CMGIの100社の中でも、指輪についている宝石(Jewelry Crown)と呼ばれる、一番の注目株だった。

 住友商事は早くからCMGIに投資をしており、中でも、エンゲージを重視していた。その力の入れようも半端ではなく、社員が20人に満たない日本法人の社長選考に、専務が直接かかわるという異例づくめだったことを覚えている。ちなみに資本金は5億円だったが、CMGIに経営権が移った直後に20億円となった。結果私が社長を務めた日本法人の中での資本金の最高額となり、大企業としての扱いで監査役が3人も必要になるという実に不思議な経験をした。

ネット・プロファイリング技術のはしり

 エンゲージは、当時大注目を浴びていたインターネット広告モデルを革新する技術を持っていた。それがプロファイリング技術である。簡単に言うと、ユーザの興味や目的に関する情報を収集し、それをもとに情報提供を行う技術だ。

 あなたが、インターネットのブラウザーを使ってネット上で行動をする(検索、買う、情報入手等々)と、アクセスしたサーバーにその足跡が記録される。そうした足跡を特定のサーバーに集め分析することで、あなたが現在、何に関心を持っているかを知ることができる。そして、その後にブラウザーで新しい行動を起こした時に、あなたの関心のある事柄と関連する情報(広告)がバナー等で表示される。最近ではビデオやストリーミング等、いわゆるリッチ・メディアも配信可能となった。

 私のメンターであり、営業の神様と言われているジェフリー・ギトマーによると、人は自分の意思で物を買うのは大好きであるが、人から売りつけられるのは大嫌いなのだそうだ。プロファイリング技術を使えば、この購買者心理のあやをたくみに利用することができる。

 エンゲージでは、ブラウザーによるアクセス履歴をもとに、検索やサイト閲覧時に、その人が探していた興味ある事物をお薦めとしてポップアップ広告を表示させた。いわば、欲しいものを売りつけるのではなく、行きつけのお店で、あなたの様子を見て、タイミング良く提案する。ここでのポイントは、その人が欲しいものを自分で見つけたかのように思わせることで、結果、”人は物を買うのが好きである”との購買者心理にズバリヒットするのである。