橘玲の世界投資見聞録 2013年9月12日

ほとんど問題にされない巨大な経済格差、
"法外な幸運"を享受する産油国の実態
[橘玲の世界投資見聞録]

 何カ月か前の新聞に、中東の産油国に招聘された欧米人サッカーコーチの嘆きが掲載されていた。

 若いサッカー選手は、有名になって成功するために必死に努力する。しかしこの国ではサッカーチームは王族の持ち物で、プレイが気に入られると褒美が与えられるのだという。

 サッカーコーチはこう語っていた。

 「彼らの自宅の車庫には(王族からもらった)フェラーリが何台も置いてあるんだ。世界の一流選手より金持ちの無名選手をどうやってモチベイトしたらいいか、僕にはわからないよ」

 ウォール街の所業のなかにはたしかに道義に反するものがあるが、大手金融機関の幹部となって年収数億円を稼ぐ立場にたどり着くには激烈な競争を勝ち抜かなければならないのもたしかだ。ウォール街のホームレスをゴールドマンサックスに連れていっても、いきなりビッグディールができるわけではない(だからといって高額報酬を正当化するわけではないが)。

 だが一部の産油国に生まれれば、能力に関係なく誰でも無条件で大金持ちになれる。どちらがより理不尽で道義にもとる「格差」なのかは考えるまでもないだろう。

世界最大のショッピングモール、ドバイ・モール(2008年末完成)     (Photo:©Alt Invest Com)

「主権独立」と「内政不干渉」では解決不可能な現実

 ウォール街の高額報酬にアメリカ人が激怒するのは、金融機関がアメリカの会社で、その社員が「自分たちと同じ」アメリカ人だからだ(実際には外国籍の社員も多いが)。それに対して中東の産油国に住んでいるのは「自分たちとはちがう」ひとたちで、彼らがどれほど恵まれた生活をしていようが、自分たちとは直接の関係がないように感じる。

 ひとは自分の「なわばり」についてはものすごく敏感になるが(だから領土問題はあれほどこじれる)、「なわばり」の外の出来事には概して無関心で、シリアで化学兵器が使用されたことも、ドバイでランボルギーニのパトカーが走っていることも、日々のニュースのひとつにすぎない。

 こうした傾向をさらに助長するのが近代の「主権国家」というシステムだ。

 中世のヨーロッパは日本でいう戦国時代の状況で、いつまでたっても“天下”が統一されないまま多数の国が覇を競っていた。そのうえカトリックとプロテスタントのあいだで宗教戦争が始まったことでヨーロッパ全土を「帝国」として統一する望みは絶たれ、このままでは延々と無益な殺し合いがつづくほかないことが誰に目にも明らかになった。

 こうして1648年に、30年戦争の講和条約として、ヨーロッパのほとんどの大国が参加するウエストファリア条約がドイツのミュンスターで締結された。この条約によって、対等な「主権」を有する相互に独立した諸国家が(主権独立)、国内の統治を他国から干渉されないこと(内政不干渉)を条件として、「国際秩序」を形成する時代を迎えることになったのだ。

 現代社会も、基本的に、300年以上前のこの「近代」の枠組みのなかで動いている。だが急速なグローバル化の進展のなかで私たちは、「主権独立」と「内政不干渉」の原則だけでは解決不可能な現実を突きつけられることになった。


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 <執筆・ 橘 玲(たちばな あきら)>

 作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 究極の資産運用編』『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券編』(以上ダイヤモンド社)などがある。ザイ・オンラインとの共同サイト『橘玲の海外投資の歩き方』にて、お金、投資についての考え方を連載中。

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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