開かれた、活力ある電力市場にするための電力システム改革には、どのような施策が必要なのだろうか。前編では現在の日本の電力システムがいかに凝り固まった権力構造となっているか、また新たな電力市場でカギを握る広域で効率的な統一市場構築のポイントを見てきた。後編では、電力システム改革で先行するドイツの事例を挙げながら、消費者サイドに近い地域での取組を中心に、日本が学ぶべき点を考えていく。

先行事例にみる電力自由化後の市場構造

『電力システム改革の本質』【後編】<br />ドイツの“地元”電力会社「シュタットベルケ」に学ぶ<br />――松井英章・日本総合研究所創発戦略センター マネジャーまつい・ひであき
日本総合研究所創発戦略センター マネジャー 1971年生まれ、96年3月早稲田大学大学院理工学研究科修了(物理学及応用物理学専攻)。NTT、野村総研、トーマツ環境品質研を経て、07年4月より日本総研入社。専門はエネルギービジネス、スマートシティ関連ビジネス

 日本では、2016年に電力の小売り全面自由化が予定されている。既存電力会社間の地域をまたぐ競争、新規参入者の増加により、国全体での競争が展開されることで電気料金が低減されることが期待される。

 そうした市場でどのような発電事業者が生き残り、どのような市場構成になるかは興味深いところである。自由化の先行事例として、日本に18年先立つ1998年、全面自由化に踏み切ったドイツをみてみよう。

 自由化前は、発送配電・小売を一貫で担う8つの大電力会社と、地域の配電・小売を担う、市が出資する地域インフラサービス会社(シュタットベルケと呼ばれる)が電力を供給する市場が構成されていた。現在の日本の電力市場と似たような、硬直化した市場であった。

 だが、自由化により、小売分野を中心に100社を超える新規事業者が参入した。それに対して既存の電力会社は、自身のもつ送電線の使用量(託送料金)を高めに設定する一方、発電投資を抑制してコスト圧縮を図り、なりふり構わず小売価格を低く設定して迎え撃った。