今や日本の職場において、セクハラ、パワハラと並ぶ3大ハラスメントとされているマタハラ(マタニティ・ハラスメント)。その被害に遭っているのは、一般企業の女性社員ばかりではない。医療・介護・保育などの世界で専門職として働く女性の多くは、妊産婦の母性保護への対策がまるで講じられない過酷な職場で、流産と隣り合わせの生活を送っている。前回の「一般企業編」に続き、専門職の職場で横行する「マタハラ」の実態をお伝えしよう。他人の命を守ろうと日夜奮闘する女性たちが、そのために自らが宿した貴い命を失ってしまう――。そんな理不尽な状況を野放しにしている限り、少子高齢化が進む日本の社会に未来はない。(取材・文/ジャーナリスト・小林美希)

「2人目だから流産してもいいじゃない」
マタハラが常態化する専門職の異常な世界

流産が“人並み”となった医療・介護の異常な激務 <br />非情のマタハラ職場で未来を奪われる女性たち(下)医療・介護をはじめ女性が専門職として働く職場では、激務が常態化している。母性保護への意識が十分浸透していない現場も少なくないという。(Photo:アフロ)

 マタニティ・ハラスメント(マタハラ)は、一般企業だけの話ではない。むしろ、1980年代に「総合職第一号」が誕生した一般企業よりも、ずっと以前から女性が活躍してきた看護師や介護職といった医療・福祉の専門分野では、人手不足からマタハラは起こっていた。そして、安定した職業の代名詞でもある公務員の世界にも、マタハラが起こりつつある。

 たとえば、女性比率の高い介護職。介護職は日本全体で約133万人の就労人口があり、その7~8割が女性となる。寝たきりの高齢者を抱えたりする仕事は体への負担が重く、切迫流産が4人に1人という状況だ(日本医療労働組合の調査より)。当然、ここにもマタハラ被害が数多く存在する。

「2人目の妊娠だからいいじゃない。皆、流産してきたんだよ」

 介護職の加藤理恵さん(仮名・30歳)にとって、この言葉は一生忘れられない辛い思い出となっている。流産したのは、もう6年前になる。第1子を出産後、待望の第2子を宿したが、夜勤が彼女の新しい命を奪ったのも同然だった。

 北関東の老人保健施設で働く理恵さん。寝たきりの高齢者を介護するのは重労働だ。流産しないか心配した理恵さんは、第1子の妊娠中も、上司から「正職員なのだから、妊娠したからといって夜勤ができないなんて言えない。みんな夜勤をしているのだから、大丈夫」と言われ、夜勤が免除されることはなかった。

 結局、産前休業に入る直前まで夜勤に組み込まれ、切迫流産や切迫早産の兆候があったものの、第1子は無事に出産することができた。