日中問題は全国民にとっての「世紀の宿題」 <br />“尖閣危機”から日本人が学ぶべき4つの教訓<br />――加藤嘉一・国際コラムニストかとう・よしかず
1984年静岡県生まれ。日本語、中国語、英語で執筆・発信する国際コラムニスト。2003年高校卒業後単身で北京大学留学。同大学国際関係学院大学院修士課程修了。学業の傍ら、中国メディアでコラムニスト・コメンテーターとして活躍。中国語による単著・共著・訳著は10冊以上。日本では『われ日本海の橋とならん』(ダイヤモンド社)、『いま中国人は何を考えているのか』(日経プレミアシリーズ)、『脱・中国論―日本人が中国と上手く付き合うための56のテーゼ』(日経BP社)などを出版。2010年、中国の発展に貢献した人物に贈られる「時代騎士賞」を受賞。中国版ツイッター(新浪微博)のフォロワー数は150万以上。2012年2月、9年間過ごした北京を離れ上海復旦大学新聞学院にて講座学者として半年間教鞭をとり、その後渡米、ハーバード大学ケネディースクールフェローに就任。現在はハーバード大学アジアセンターフェローとして中国問題や米中関係の政策研究に取り組む。米ニューヨーク・タイムズ中国語版コラムニスト。世界経済フォーラムGlobal Shapers Community(GSC)メンバー。趣味はマラソン。座右の銘は「流した汗は嘘をつかない」。 
Photo by Kazutoshi Sumitomo

「尖閣を買ってくれた
野田首相に感謝」

「日本が国有化してくれて助かった。我々はそこから巨大な利益を得た。野田佳彦前首相に感謝だ」

 8月中旬、北京に滞在している間、中国公安部のある幹部が私にこう語った。私が中国各界の関係者から聞いた“最後の証言”と言えるかもしれない。 

 昨年9月11日、民主党政権・野田佳彦前首相率いる日本政府が尖閣諸島を“国有化”してからというもの、米ハーバード大学を訪問してきた中国共産党幹部、台湾で開催された国際シンポジウムに参加してきた中国の“学者”、シンガポールで日中投資環境を語り合った華商……、“尖閣危機”前後の日中関係に関心と利害を共有する多くの中国人と対話を続けてきた。

「日本軍国主義の復活を象徴する暴挙だ」
「日本人は相変わらず歴史を反省していない」
「釣魚島は日本が盗みとったものだ」

 それら内輪の対話において私が接触した中国人たちは、上記3つに代表される、中国の国家リーダーや外交当局が公の場で日本を名指しで批判してきた際に使用する扇動的なニュアンスで相手を罵るのではなく、「起こってしまったものはしょうがない。問題はそこから何を得るかだ。そのためにどういう戦略を描き、どう行動するかだ」という残酷なまでにしたたかな姿勢を貫いていた。代表的なコメントが冒頭の「野田前首相に感謝」であった。

 “最後の証言”と表現したのは、現在に至るまで、最後にこの手のコメントを聞いたのが、北京という場所であり、国家安全(National Security)という中華人民共和国の中で最も重要なセクターの幹部からだったからだ。国務院の傘下にある各政府機関(外交部、商務部、財務部、農業部など)のなかで、公安部の地位は格段に高い。政府全体のあらゆる政策に発言権を擁する。共産党が支配する中国の国家形態を象徴している。強さ、そして脆さを。

「日本側が中央政府の政策として棚上げという暗黙の了解を打破し、現状の変更を行ってくれたおかげで、中国側としてもそこに行動で対抗する口実ができた。より多くの監視船を送り込む理由ができた。それは日本の実効支配を崩すことにつながる。これからこの海域は真の意味で紛争地帯になる」

 前述の公安部幹部はそう続けた。