「私の母は厳しい人でした。
 両親とも教員で、とくに母は私のことを教員の娘として恥ずかしくないようにと、しつけや学校の成績に関しては容赦しない人でした。
 私が幼稚園に行き始める頃から、体罰もしょっちゅうでした。
 お弁当を残すと頭をゴツンとやられましたし、手を洗わないでおやつを食べたというだけで、腕を平手で赤くなるまで叩かれました。
 ときどき、私が叩かれているときに、父が『もういいだろう』と言ってくれることもありましたが、そうすると母の怒りの矛先が父に向くんです。
 自分に悪役を押しつけて、あなたはいつもいいところ取りをする、と。
 そうなると、ねちねちといつまでも言い続けるので、だんだんと父も母と私の間に割って入ることがなくなっていったんです」

叩いたのは、私を愛していたから?

 今でも当時の自分の親に対する恨みやわだかまりが消えず、生々しい記憶として残っているようであった。

 体罰を与える母親が嫌で嫌でたまらず、そういう親には絶対なるまいと心に誓ったのだという。

「夫は優しい人で、この人となら、穏やかで温かい家庭が築けると思って結婚しました。

 結婚して娘が生まれて、私も夫もうれしくて、大事に育てようね、と言い合って……。

 ところが、娘が物心がついてやんちゃをし始める年頃になると、すごくイラついた気持ちになりだしたんです。

『どうしてこの子はわがままばかりするんだろう、私の小さい頃は、こんなことをしたら母はただではおかなかった』と思うと、憤りがこみ上げてきて、『叱らなくちゃ。叱らなくちゃいけない』と思わず平手で娘をぶったら、そのときから手を上げる癖がついていって……。

 最初は『叱らないとこの子が悪くなる、叱るのはこの子のためだ』と思い詰めていました。
 でも、娘を叩いたあとに、ものすごく自分が嫌になるんです。
自分は今、あれほど嫌っていた母と同じことをしていると思うと、自己嫌悪でいたたまれなくなるんです。
 でも、その一方で、娘がいい子にしていてくれたら叩かずにすむのに、と娘のせいにしている自分もいて、余計やりきれなくなるんです……」