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10月28日 18時0分
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アベノミクスの大きな揺らぎ〜「第2の矢」の弱点〜 - 村上尚己「エコノミックレポート」

10月25日レポートでは、2012年末以降のアベノミクス相場は、5月半ばに日本株が調整に転じた前後を境に、前半と後半に分けることができることを説明した(グラフ参照)。前半6か月余りは、アベノミクスの「第1の矢」である金融緩和強化が、日銀体制の大転換と伴に進むプロセスを目の当たりにして、脱デフレが実現するとの期待が高まった。この結果、大幅な円安が進み、日本株は、米国株を上回る大幅高を演じた。


4月4日の黒田新日銀による量的金融緩和強化が実現し、それが一段の株高をもたらした後、金融政策を材料にしたアベノミクス相場は落ち着いた。その後は、短期的なバリュエーションの割高感などが意識されるようになり、日本株の値動きは米国株などに左右されるようになった。そして、10月になると、米国株が債務上限問題への懸念が和らぎ最高値を更新する中で、日本株は、米国株の上昇についていけなくなる兆しがあらわれている。

この最近の動きをどう解釈するかいろいろな見方はあり、市場センチメントの変動という、短期的ないたずらかもしれない。筆者は、「脱デフレを最優先としたアベノミクスが大きく揺らいでいる」ことが、10月になってからの米国株と日本株の動きの違いをもたらしつつあるとの仮説を前提に、懸念しているわけである。

もちろん、この仮説は一つの可能性でしかない。「アベノミクスが揺らいでいる」というのは筆者の判断であり、果たして本当か?と思われる方も多いだろう。実際に、安倍政権の経済重視の姿勢は変わっていないし、現在「成長戦略」をテーマに国会で論戦が行われている。第1の矢である金融政策だけではなく、第2の矢(財政政策)、第3の矢(成長戦略)も、景気回復と脱デフレを後押しすると期待できるかもしれない。

実際に、第2の矢である、公共投資を中心とした政府支出は足元でさらに増えている(グラフ参照)。公共投資は、2012年に復興需要が本格化した後拡大し続け、2013年初に決定した大型補正予算で更に増えた。2014年の消費増税に伴う、いわゆる「5兆円対策」のうちその半分程度は公共投資関連の支出にあてられるとみられる。財政支出拡大が、日本の景気回復を一段と後押しすれば、「3本の矢」で構成されるアベノミクスは更にしっかりするのではないかと。


ただ、そうした見方は妥当とは言い難い。10月4日レポートで説明したが、5兆円対策の中で検討されている補正予算での公共投資は、2013年初に既に行われたのと同水準を、2014年も継続するだけで、せいぜい現在の公共投資の水準を保つということである。

更にアベノミクスの弱点なのだが、第2の矢は「機動的な財政政策」だが、それが公共投資などの政府の歳出だけが手段になっている問題がある。増税や減税、社会保険料負担の調整などの手段も、財政政策であるはずが「第2の矢」の選択肢には入っていない。

つまり、アベノミクスにおける「第2の矢」は、公共投資という手段に偏重する格好になっている。もちろん、デフレと流動性の罠においては、政府による公共投資拡大は総需要を増やすプラスの効果がある。それが乗数効果をともなって経済全体の押し上げに波及することが、理論上期待される。

ただ、政府による公共投資は、主に建設セクターに景気回復効果が集中する問題がある。そして、実際に過去2年、政府の公共投資はかなり増えているが、実際に建設業の雇用拡大に余りつながっていない(グラフ参照)。この理由はいろいろ考えられるが、第2の矢の主役である公共投資が、雇用を含め経済全体を刺激する効果は限られている。そう考えると、第2の矢として、脱デフレを後押しするためには、「減税や社会保険料削減」がより有効な対応かもしれない。にもかかわらず、実際には2014年から消費増税が行われることになり、「第2の矢」は脱デフレという目標とは逆方向に放たれることになった。


脱デフレを実現するためのベストの経済政策運営は、金融政策、財政政策の双方ともに、総需要を増やす方向で整合的に組み合わせ、運用されることだろう。しかし、金融政策でアクセルを踏みながら、財政政策では急ブレーキが踏まれたわけで、これで経済政策の枠組みが大きく変わることになる。こうした意味で、筆者は、「アベノミクスは大きく揺らいでいる」と現状判断している。

脱デフレを目指すアベノミクスの揺らぎが、実際にどの程度経済動向に影響を及ぼすかは、いろいろな予想が成り立ちうる(筆者は2014年度前半の大きな景気減速を想定している)。ただ、少なくとも、マーケットが、アベノミクスの揺らぎをリスクとして警戒する場面が続くのではないか。その懸念が和らぐきっかけは、日本銀行が金融緩和のアクセルを踏み、再び脱デフレを目指すアベノミクスへの市場の信頼を取り戻すことだろう。




(チーフ・エコノミスト 村上尚己)

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