国家の安全保障にかかわる機密情報を保護するための「特別秘密保護法案」が、国会に提出された。日本には「スパイ防止法」がないためとされるが、実質的にその機能を果たす法律は多々ある。何よりも問題はその捜査能力にある。いまや情報漏洩は古典的なスパイ活動よりもサイバー技術の発達で起きる。その点でも今回の法案は1950年代を想わせる古色蒼然たる代物である。

既に多々存在する秘密漏洩防止の法律

 政府は10月25日、主として公務員による安全保障関係の秘密漏洩を最高懲役10年の刑に処する「特定秘密保護法案」を閣議決定し、国会に提出した。だが日本にはすでに公務員の秘密漏洩を罰する法律がいくつもあるのに、それで処罰された例は少ない。スパイがあまりいないのか、それとも摘発する捜査能力が不足なのか?いずれにせよ重罰化しても秘密漏洩の防止の効果は乏しそうだ。

 今回提出された「特定秘密保護法案」に関するテレビの討論会や新聞のインタビュー等で政府・自民党の当局者は「日本には他国にあるスパイ防止法がない。スパイ天国だ」とその必要性を説く。だが実際には日本には公務員の秘密漏洩を禁止、処罰できる法律として

 ①「国家公務員法」(守秘義務違反は1年以下の懲役、教唆、共謀した民間人も処罰可能)

 ②「地方公務員法」(罰則は同じ、大部分の警察官にはこれが適用される)

 ③「自衛隊法」(「我が国の防衛上特に秘匿することが必要」で「防衛秘密」に指定されたものの漏洩は5年以下の懲役、それ以外は1年以下)

 ④「刑事特別法」(米軍の方針、計画、部隊の編制、配備、行動人員、装備の種類などの機密を探知、収集、漏洩する者は10年以下の懲役。この法律の正式名称は「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法」という長い名前だ)