家庭が裕福か貧しいかで、将来の生活水準が固定されてしまう「格差世襲」が社会問題になっている。格差研究の第一人者・橘木俊詔 同志社大学教授は、学歴の差が生活格差を生む現状に警鐘を鳴らし、教育政策の必要性を訴える。

橘木俊詔
たちばなき・としあき/1943年生まれ。経済企画庁客員主任研究員などを経て、現在同志社大学教授。著書に『格差社会』(岩波新書)、『日本のお金持ち研究』(日本経済新聞出版社)など。(撮影:REAL)

―「格差の世襲」という実態はあるか?

 親が裕福なら子も裕福、親が貧乏なら子も貧乏にならざるをえないというのを、専門用語では「階層固定化」と呼んでいる。もちろん日本は自由主義社会なので、本人の能力と努力で逆転も可能だが、今はそれが徐々に難しくなっている。

 昔は逆転する1つのきっかけは「教育」で、たとえ貧乏人の子でもよい教育を受けられればよい職に就き、高い所得を得られた。だから30年前は「貧乏人の子は国立大学に行け」というのが日本全体の理解で、授業料の安い国立大なら貧乏でも本人の努力次第で進学できた。当時国立大と私立大の学費差は7~8倍、裕福な子が私立大に行く、というのが当時の考えだった。

 ところが、今は国立大と私立大の学費差が縮まった。2004年時点で年間学費の平均は国立大52万円、私立大81万円だ。

 なぜ差が縮まったのかというと、私立大と差があり過ぎるということから、国立大の学費が上がったから。一方で、約30年前、私立救済のため、私学助成金が設けられたため、私立大の学費は上がらなかった。

 さらに最近は国立大の独立行政法人化によって、国立大の学費格差まで出てきた。近年、東京大学も中学・高校からカネをかけて教育された子たちが増えており、国立大も親が裕福でないと行けない、という風潮になりつつある。