日本航空再建へ参画した理由 

 2010年1月19日、経営破綻した日本航空(JAL)に対するに企業再生支援機構の支援決定がなされ、同日、京セラの稲盛名誉会長がJAL会長に就任することが発表されました。

 稲盛名誉会長が最終的に「再建の任」にあたることを承諾した理由は、もしJALが二次破綻した場合、日本経済に与える影響があまりにも大きいこと、JALの残った社員の雇用を守ること。そして、JALと全日空(ANA)が競ってこそ国民の利便性にかなう、ということでした。

 私も、稲盛名誉会長から「もし引き受けるときはお前も一緒に来い」と言われていましたので、お供することになりました。

 JALが破綻した当初は、報道機関をはじめ、誰もが、この会社が長年抱え、解決がつかなかったさまざまな課題から、「決して再建はうまくいかないだろう」「二次破綻は必至であろう」と考えられていました。

 山ほどの課題を抱え倒産した企業に、航空運輸業の経験もない稲盛名誉会長が、たった2人の京セラ役員と自分で作り上げた経営哲学「フィロソフィ」と、経営管理システム「アメーバ経営」だけを携えて乗り込んでいった訳です。JALへの出社日は、2010年2月1日でした。

JAL役員・幹部の“崇高”な考え

 私達はJALに着任すると同時に、徹底したヒアリングを実施していきました。JALの全部門、全ての子会社の状況を把握するのですから、出社してから3ヵ月、毎日朝から晩まで分刻みのミーティングをこなしていきました。

 これは私にとっても大変労力のいる仕事でしたが、稲盛名誉会長は高齢にもかかわらず、常に高い集中力で取り組みました。

 このヒアリングで感じたことは、まずJALには経営に必要な数字がなかなか見つからない。また、経営幹部の誰が利益責任を担っているかが全く分からないということでした。

 もう1つは、JALの役員・幹部は「安全が利益より優先する」「利益が出るのであれば公共交通機関の役割として赤字路線でも飛ばすべきである」と考えているようでした。大変崇高な言葉、意識であるかもしれませんが、そのことでJALは破綻に至った訳です。