11月の声を聞けば、地球温暖化の影響で暖冬も珍しくなくなったとは言え、やはり日に日に肌寒さが強まって来る今日この頃です。

 『冬は来ぬたとえば遠き旅人の故郷に来て眠るごとくに』

 これは石川啄木が百年以上前に詠んだ短歌です(「申歳」第10号・明治41年11月8日刊)。

 で、冬の到来は、天才歌人でなくとも、誰にでも微妙にメランコリックな感慨をもたらすものです。だって、人間は自然の中で生きていますから、四季の変化が心のあり様に陰に陽に影響を与えているのです。

 そんな時は、哀愁の旋律に酔いしれるのも悪くありません。

【メンデルスゾーン「ヴァイオリン協奏曲ホ短調・作品64」】 <br />感情の抑揚が音に滲み音楽の不思議を感じさせる

 と、いうわけで、今週の音盤はメンデルスゾーン「ヴァイオリン協奏曲ホ短調・作品64」です(写真はヴァイオリン独奏がヤシャ・ハイフェッツ、シャルル・ミュンシュ指揮、ボストン交響楽団)。

三大ヴァイオリン協奏曲??

 メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲と言えば、古今東西のヴァイオリン協奏曲の中でも屈指の作品です。

 世に、三大ヴァイオリン協奏曲という言い方があります。ベートーヴェン、ブラームス、そしてメンデルスゾーンということになっています。

 が、率直に言って、聖ヴァレンタインデイのチョコレート業界の販売戦略に似たものを感じます。聖ヴァレンタインデイに愛を示す贈り物はチョコレート以外にも沢山ありそうです。同様に、ヴァイオリン協奏曲もバッハ、ヴィヴァルディ、モーツァルト、パガニーニ、シューマン、チャイコフスキー、シベリウス、バルトーク等々が書いた綺羅星の如き名曲が沢山あります。誰がどんな基準で三大ヴァイオリン協奏曲なる選定をしたのか知る由もありません。それに、三大ヴァイオリン協奏曲の一つ云々という言い方は、メンデルスゾーンのこの名曲の本質を衝いている訳でもありません。