橘玲の世界投資見聞録 2013年11月14日

「ぜったいに知られてはならない」教会の秘密を守るバチカン銀行
[橘玲の世界投資見聞録]

 ダルドッツィの資料は若干古いが、1996年の公式の内部調査(非公開)によると、バチカン銀行の総預金額は(当時の相場で)およそ30億ユーロに達していた。それが2008年にはおよそ50億ユーロ、約7000億円になったと推定されている。

 また1994年のプライス・ウォーターハウスによる監査(これももちろん極秘)によれば、バチカン銀行の金庫には1617キロの金塊が保存されており、それ以外に2500億円相当の国債と90億円相当の株券があった。

 こうした預金を、バチカン銀行はカトリック教会や修道会、カトリックの要人やその「友人」に融資し、1993年には運用や投資から約70億円の利益を得ている。それに加えて信者からの献納金約100億円があり、教皇は170億円相当の資金を自由に使うことができた(バカン市国の財政はほとんどの年で赤字だった)。

 内部資料によって明かされた「バチカン銀行の実態」をどう評価すればいいのだろうか。

 預金量7000億円というのは、日本でいうと中堅の信用金庫とほぼ同じだ。「バチカン銀行」の名前からもっと巨大な金融機関を思い描くだろうが、その実態は地方の信金・信組のレベルなのだ。

 全世界のカトリック教徒は10億人といわれるが、そこから教皇への献納金が年間100億円しかないというのも驚きだ。これだと信者1人あたり10円ほどしか教皇に献納していないことになる。

 これは信者の寄付の多くがそれぞれの教区の教会で行なわれ、そこからバチカンに上納する制度になっていないことが理由だろう。バチカンは教会と対抗して信者から献納金を集めなくてはならず、その金額はけっして多くないことがわかる。

教会でミサを受けるパレルモの家族    (Photo:©Alt Invest Com)

 教皇が自由に使える資金は、「これまででもっともよい年」といわれた1993年で約170億円だった。この「収入」は個人としてはけっして少なくはないが、その人物がローマ教皇だとするとやはり意外感はある。ビル・ゲイツをはじめとして、世界には1000億円を超える年間所得を得ている超富裕層はいくらでもいるのだ。

 バチカンはその圧倒的な精神的権威に比べて、財政的にはかなりつましい状況に置かれている。だがこのことは逆に、バチカン銀行がなぜスキャンダルに巻き込まれやすいのかを示しているのではないだろうか。

 特定の信金や信組が「主権」を持ち、資金の完全な秘匿を提供できるならば、誰もがこの「小さな魔法の金融機関」を自分のものにしたいと思うだろう。このようにしてバチカン銀行は、イタリア現代史の波に翻弄されてきたのかもしれない。


 <執筆・ 橘 玲(たちばな あきら)>

 作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 究極の資産運用編』『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券編』(以上ダイヤモンド社)などがある。ザイ・オンラインとの共同サイト『橘玲の海外投資の歩き方』にて、お金、投資についての考え方を連載中。

 
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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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