行政や議会が忌み嫌う住民の直接請求
署名集めの努力が実を結ぶことはほぼ皆無

 条例の制定を求める住民による直接請求は、いまやそう珍しいものではなくなった。請求に必要な署名(有権者数の50分の1以上)を集める光景が、あちらこちらの自治体で見られるようになったといっても過言ではない。

 しかし、こうした署名集めの努力が実を結ぶケースは皆無に近い。間接民主主義を補完する重要なツールでありながら、残念なことに充分に使いこなされてはいない。

 住民による条例制定の直接請求には、一定の傾向がうかがえる。1つは、住民投票条例の制定を求めるものが圧倒的に多い点である。そして、その住民投票は、特定の政策・事業の是非について住民の意思を問うように求めるもので、マルかバツかの二者択一を想定しているケースがほとんどだ。マルかバツかの先に何かが提示されているわけではない。

 さらに、もう1点。行政が実施しようとする政策・事業に疑問や異論を抱く住民が、直接請求の活動に乗り出すというものが多い。考えてみれば、それも当然かもしれない。行政の進める政策・事業に疑問や異論、関心がなければ、自ら声を上げることなどないからだ。

 つまり、行政にストップをかけたいとの強い思いを持った住民が、住民投票の実現に駆けずり回るというのが実態であろう。「住民の是非を問え」と要求する人たちの思いは、そのほとんどが「非」なのである。

 そうであるからこそ、行政や議会は住民投票条例制定の直接請求を忌み嫌う。「自分たちに盾突くけしからん活動だ」と敵視したり、「寝ている住民を揺り起す迷惑な行為だ」と怒るのである。主権者である住民が持つ権利の行使であるにも関わらずだ。