今年11月末、東京ビッグサイトで開催された2009国際ロボット展で、ひときわ人だかりのあるブースがあった。株式会社ココロ(本社:東京都羽村市)が展示するのは、キーボードの前に座り、観衆とコミュニケーションするアンドロイド。遠隔操作をして動くリアルな人体型ロボットは、表情も動きも20代のOLさんそのものだ。

「アクトロイド-DER」
ココロの人体型ロボット「アクトロイド-DER」

 ロボットといえば産業用ロボットとサービスロボットに大きく二分されるが、後者の中でも、この究極のアンドロイド技術を持つ企業は非常に限定的だ。同社が手がけるこの「アクトロイド-DERシリーズ」はキャンペーンガールやステージショーの司会などでレンタル需要が増す一方で、近年では愛知万博での活躍が記憶に新しい。

 そのアンドロイドが今、中国で注目されている。今年、同社にこんなオファーが突然持ちかけられた。

 「上海万博の会場で、上海万博の公式マスコット『海宝(ハイバオ)』の案内ロボットを出したい。中国の大学と共同開発しませんか」――。

 日本の技術を中国市場に売り込める好機がついに到来した。千載一遇のチャンスといえばまさにこのことである。その交渉に数ヵ月という時間が費やされた。だが、同社が出した結論はノーだった。

 取締役営業部長の三田武志氏は「今回は見合わせます。万博を契機にビジネスが広がればと思ったのですが……」と話す。

 ゴーサインを出さなかった理由のひとつは「納期」だった。同社の「アクトロイド-DER」は愛知万博で接客ロボットとして起用されたが、開催の4~5ヵ月前にはすでに完成していた。ところが、もし上海万博に送り込むとなると、2010年5月1日の開催には時間が足りない。今年11月の段階では設計はおろか、調印にもこぎつけていなかったからだ。

 「安全性、耐久性を想定してロボットを設計するという、慎重に準備を重ねる日本的なものづくりには、対応が難しかった」と三田氏は振り返る。